音楽の部屋2

□Scarlet Knight
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赤闇とラズがジズの屋敷の客間を訪れると、見慣れぬ男が一人、ジズの正面の席に座っていた。
燃えるような赤毛に漆黒のスーツを身に纏った男性だ。こちらに背を向けているので顔付きはうかがえないが、ジズが楽しそうに談話しているので顔見知りだろう。
「おやラズに赤闇さん、いらっしゃい。ちょうどヴィルヘルムさんとお茶を飲んでたんですよ。ご一緒にいかがですか?」
ジズがそう言いながらこちらに微笑んだので、ヴィルヘルムと呼ばれた男がこちらを振り向いた。精悍な顔付きの若い青年だ。切れ長の目の下から頬にかけて牙状のマークが走っている。ジズやラズよりも鮮やかな、鮮血のような赤い瞳。
彼と目が合った瞬間、赤闇はぞわりとした悪寒を感じた。この男、あのプルソンがかわいく思えるほどのとんでもない魔力を秘めている。こいつが本気を出せばこの惑星、いや銀河の一つは消えるだろう。
「何ダコイツハ?」
ラズもこの男の強大な魔力を感じているらしい。体がわずかに震えている。
「おいおい、人に何だという前に、自分から名乗るのが礼儀だろうが」
思わずこぼれたラズの呟きに答える低音が響いてきた。彼のその声からも顔色からも威圧感と不機嫌さがにじみ出ている。
「ああヴィルヘルムさん、こちらは赤闇さん。私と同じ幽霊で魔術師です。白い服を着てるのはラズ、私の半身で赤闇さんの恋人ですよ」
不穏な空気を和まそうと、ジズがあわてて赤闇とラズをヴィルヘルムに紹介する。
「ラズに赤闇さん、こちらの方は私の友人でヴィルヘルムさん。暗殺組織のボス兼魔王です」
「マ、魔王?」
「魔王だと?」
ラズと赤闇は驚愕に目を見開いた。
確かに目の前の男は悪魔の特徴でもある尖った耳と牙を生やしている。だがこの世界では人外などゴロゴロいる。わざわざ魔王を騙る必要などない。しかし、この強大な魔力と威圧感、間違いなく本物の魔王である。
千年もの間魔術師として数々の悪魔を従えた赤闇も、魔王に会うのはこれが初めてだった。
「魔術師・・・半仮面を付けた赤い服の魔術師に、白い服の金髪の青年・・・そうか、お前らか」
まるで獲物を見つけた肉食獣のように、血色の目が剣呑な光を放つ。
「あの、ヴィルヘルムさん? 彼らが何か?」
「この前プルソンの奴が俺のところに訴えてきたんだよなぁ。『呼ばれたから行ったのに、いきなりドタキャン! その挙句抗議も聞かれずに強制退去だなんてあんまりだ!』ってよ。随分ひどいことする奴がいたもんだと思って特徴を聞いたら、どうもジズに似てるみたいでな。ひょっとしたら知り合いじゃないかと思って張ってたら案の定だ。やっぱり魔王として、民の声には応えねぇとなぁ」
魔王の真っ赤な目がラズに向けられる。その視線にまるで金縛りにでもあったかのようにラズは動けなくなってしまった。
「つまり貴様がここに来たのは」
ラズを背後に庇い、身構える赤闇。
「その慰藉料の取り立てだ」
そう言いながらヴィルヘルムがスッと立ち上がった。立ち上がるとかなり長身だということがわかる。
ヴィルヘルムが立ち上がった途端、部屋の空気が一瞬にして凍り付いた。今まで感じたことのない凄まじい覇気と魔力に、魔術師としての彼の本能が警鐘を鳴らし、全身から冷や汗が噴き出る。
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