short-novel

□Call me my name.
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「あ。榎本の卵焼きうまそー。」

「白子入ってるよ。……食べる?」

「え?いいの?!食う食う。」

「じゃぁ蓋の上に乗せとくね。」

「なぁ、浅見?」

「なんだよ、倉間。お前にやる分なんかねぇぞ。」

「違ぇよ。――お前らさぁ、付き合ってんだろ?」



それは、いつもと変わらない、ある晴れた日の昼休み。



「なんでいまだに苗字で呼んでるわけ?」



俺の一言に、二人はきょとんとした顔で俺を見た。



Call me my name




「そういえば、榎本って呼んでるかも。」

榎本からもらった卵焼きを早速口にくわえ、サッカー部稀代のエース・浅見が首を傾げた。

「私も……」

つい最近(本当に数日前)、稀代のエースの彼女というプレミアの高いポジションをゲットした榎本も、浅見の真向かいの席で頷いた。

頷いたってことは同意してるんだろうけど、言葉が続いていないから断定しきれない部分がある。

「榎本も俺のこと苗字でしか呼ばないよな?」

俺がどう判断したらいいか迷っていると、浅見が榎本の言葉を補ってくれる。

そう、それ!それが言いたかったの!と言わんばかりに、榎本が頷いた。

美術部に所属している榎本はどちらかというと控え目なかんじで、お喋りを率先してするタイプではない。

教室でも友達とは必要最低限でしか群れないし、休み時間は机に伏せっている場面しか見たことがなかった。

そんな彼女が声を発する場面にお目にかかるようになったのは、本当に二ヶ月くらい前からだ。

いつものように浅見と駄弁ろうと奴の席まで行くと、奴は後ろの席の榎本と仲良くお喋りしていたのだ。

部活中にベランダから落ちた描きかけの絵を拾ってあげたことくらいしか縁がなかったくせに。

一体何故?!と後で問い詰めると、

「この間拾った絵、描き終わったから見に来てーって誘われて。そんで。」

と照れくさそうに白状しやがった。

そんな鼻の下伸ばしたデレデレ顔を見てイラっとこない独り身男がどこにいる。

俺が奴にアイアンクローかましたって、誰も咎められないだろう。
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