short-novel
□Dear 口ベタ Girl
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俺の好きになった女の子は、
地味で内気なお絵かき少女。
そんな彼女はとんでもない口ベタで。
会話を成り立たせるのも一苦労。
そんな苦労も、彼女の笑顔で吹っ飛んじゃうけど、
どうして君は口ベタなの?
Dear 口ベタ Girl
「榎本、おはよ。」
俺は俺の席の後に座る彼女に声をかけた。
「おはよ、浅見君。」
英単語のテキストから顔を上げ、彼女――榎本希美がふわりとほほ笑んだ。
「あれ?今日って英単……」
「……うん。あるよ。」
英単、とは英単語小テストの略称だ。
「やっべ、俺何もしてねぇっ!!」
「大丈夫だよ。今回の範囲は……簡単だから。」
「今の間は何?!うわー、俺英語全然ダメなのに……」
「えっと……多分、ここ?でるよ。」
「マジで?!他には!!」
「うーん、他は……」
榎本がさらりと零れおちた黒い髪を、右手で耳の後に持っていった。
榎本は、ハッキリ言ってしまえば、地味な部類に入る子だ。
ツヤツヤの黒い髪は、肩の下あたりでくるんとウェーブがかかっているが、多分元からそうなのだろう。
他の女子はよってたかってアイロン……だっけ?あれでクルクル巻いてるから髪傷んでるけど、榎本は地毛らしいから、すごい自然。
それに、何といっても顔。
うちの学校は県内でも中間レベルの学校なんだけど、女子の化粧がすごい。
俺の友達の彼女サンも言ってたけど、トイレに付けまつ毛が平気で落ちてるらしい。
ちなみに、その子は化粧しない派で「あなたたち女の子でしょう?!て怒ってやりたい。」と拳を握り締めながら、ブツブツ文句をたれていたのを覚えている。
で、今目の前にいる――……
顔を上げると、同じように顔を上げたらしい榎本と、おもいっきり目があった。
「浅見君」
「え?!な、何??」
思わず声が上ずってしまう俺。
いくらドキッとしたからって、上ずっちゃだめでしょ、情けない。
「今の……聞いてた?」
にこりと笑って、彼女は首を傾けた。
普通の女子なら、この笑顔の下に「せっかく人が親切に教えてやってんのに、聞いてないなんて何事?!」という怒りが隠れているんだろうけど、榎本は無意識にやってるから罪悪感三割増。
「―――っ!……すいません、もう一度教えていただきたいです。」
「あ、うん。……いいよ。どこから?」
うわ、本っっ当に申し訳ない。
普通の子ならこんなこと言わないよな?とっくに愛想つかしてるよな?
俺はそう思いながら、もう一度丁寧に教えてくれる榎本の顔を見た。
日焼けを知らないような、白い肌。
触ったらぷにってしそうな頬(俺が言うと変態だ)。
意外と大きい瞳。その中には……あれ?俺が映ってるし。
テキストに向けられていた視線がこちらを向いて、俺はタジタジになった。
うわ、その純粋な目でこっち見つめないでっ!!
「浅見君」
本日二度目だし。
「なんでしょーかっ?!」
「……なんか疲れてそうだから、……後にする?」
……心配された。
いや、大丈夫だって!
まぁ、確かに今日は先生、朝っぱらから鬼だったけど!
いや、むしろいつも鬼だけどっ!
今からやんないと俺の場合、頭に入らないし!
赤点とったら復習プリント提出とか面倒だしっ!!
思いつく限りの理由を並べて反論すると、榎本はクスクスと小さく笑いながら、また教えてくれた。
ホント、榎本って良い奴だよな。
んでもって。
すっげー……かわいい。
誰だよ、今「意外と地味な子が好きなんだー」とか思った奴。
いや、別に良いけど。
でも、俺も最初は榎本なんて全然眼中になかった。アウトオブ眼中。
そんなアウトオブ眼中だった彼女が気になりだしたのは、クラス替えをして一か月経った、五月頃。
春の日差しが、少しずつ夏の日差しに変わりかけてきた、ある日のことだった。