銀魂(短編)
□違法喫茶潜入デート(沖神)
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お江戸の町。
ある古びた工場。
『副長見つけました』
何処にでもいそうな黒髪の、地味…あ、いや…
人に溶け込む事が簡単に、実に簡単に出来そうな青年が、レシーバーに向かいそう呟いた。
「いや、長ぇよ!」
「誰と話してんだコラ」
『いえ済みません。』
レシーバーの向こうから聞こえた、ドスの効いた声に青年は姿勢を正し、目標をひたと見つめる。
「どのくらいいる?」
『副長』と呼ばれたその人の問いに、黒髪の青年は静かに答えた。
「内部に潜入した結果、20人と小数です。」
『もうちょっと捜査を』
立ち上がろうと腰を浮かせた青年を、別の男の声が止めた。
「いや待て。」
『俺が行こう』
違法喫茶潜入デート
「待つアル!コラぁ!!」
少女が町を駆け抜ける。充分過ぎる程の元気で町内を抜ける少女の、目線の先には一頭の人間の大人一人分は有りそうな背丈の白い犬。
「お、ラァ!!」
少女は大きく飛び上がり、犬の臀部を蹴り飛ばす。
『きゃううん!』
小さく悲鳴をあげた犬は、巨体を大きく宙に浮かせ頭から地に落ちた。
「お妙さん!」
『頼むよぉ』
朝方の7時過ぎ、懐寒くなった頃。
夜の町が活気を失い、静寂を取り戻す。
ゴリラのような風貌の、体格の良い一人の男。
ドサリと一つ締め出された。
「ねぇってばお妙さん!」
座り込んだ男が縋るように手を伸ばす。
その手の先にあるものは、仁王立ちで睨みを効かす18歳の華乙女。
女は唾を吐き捨てて、男を見下しこう言った。
「しつけぇんだよ。この、ゴリラが。」
「いや、ホント、お妙さんの協力が」
言い終わる前に男の言葉を塞いだのは、作り笑顔の女の拳。
それは男の顔面に当たり、男はバタリと倒れ込んだ。
「近藤さん」
冷たい視線を彼に向け、女は優しい声色で呼ぶ。
「しつこい男は嫌われますよ」
扉が閉まり、倒れていた男が頭を摩り、身体を起こした。
「痛てて…」
突然暗くなった視界。
男が見上げる間もなく、その身体に重みが広がる。
「定春」
少女に呼ばれた犬は、身体を起こし尾を振るう。
「勝手に走っちゃいけません!分かったら帰」
目が犬の轢いている物に止まり、少女は小首を傾げた。
「そんなとこで寝ると風邪引くヨ?」
しゃがみ込んだ少女が、白目を向いて倒れる男を傘で突く。
「おう。チャイナ」
『何やってんでぃ』
不意に頭上で聞こえた声。
少女は睨みを効かせ、声の主に傘の柄を向けた。
と、同時に少女に向けられた刃物。
「気安く呼んでんじゃねぇヨ」
「危ねぇな。怪我するだろぃ」
しばしの間続く、物騒な睨み合い。
それを中断させたるは、犬の尻に轢かれし男…。
「ちょっと!助けるとかないの総悟くん!!」
「いたんですかぃ?近藤さん。」
『総悟』と呼ばれた青年の目が、犬の下の男に止まる。
青年は冷めた目で見つめながら、わざとらしくそういった。
「てっきり寝てんのかと思いやした」
「見えてるよね!それ!見えてるよね?!」
『いいから早く退かしてよ!!』
男が明らかに自分よりも年下の青年に懇願する。
その男の頭を、青年は足蹴にしながら薄ら笑いを浮かべた。
「ちょ、ちょっと総悟くん!?」
「勿体ないですぜ近藤さん。犬のケツの下なんていい布団だぜぃ。」
『ゴリラにはお似合いでさ』
その様子を眺めていた少女は、傘を広げ立ち上がると犬を呼ぶ。
犬は一吠えすると、男を踏み付け、青年を避けて主の元へと戻っていった。