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□『普段笑顔の人が無表情になる時ほど怖いものはない』
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それは唐突におとずれた。
『普段笑顔の人が無表情になる時ほど怖いものはない』
【銀時side】
いつも通りに、アイツは朝7時に出勤してくる。
そして朝御飯の準備して、
トントン、コトコトと手際よく調理する。
実はその音を毎朝目覚まし代わりにしてるなんてアイツは知らないだろな。
しばらくすると味噌汁の匂いと炊きたてのご飯の匂いが漂ってきて、腹の虫が鳴る。
この瞬間がたまらなく幸せだと思える。
アイツが俺を起こしに来るまでの少しの間目を閉じる。
独りだった時にはあり得ないくらいの温かさが少しむず痒い。
そして同時にこの幸せを失いたくないと思う。
それもこれもアイツや神楽と出会ってから思えるようになった。
そんなことを考えていれば、
トタトタと足音を立てながらアイツが近付いてくる。
「銀さん、神楽ちゃん、朝ですよー」
お前の声で1日が始まる。
そんな朝を迎えられる俺はきっと新婚ホヤホヤの夫婦以上に幸せ者だ。
そして仕事がなければ(大抵、の話)、
家でのんびり過ごす。
俺がソファーに寝転がりながらジャンプを読み、向かい側のソファーでは神楽が寝転がってテレビ番組に夢中になっている。
そんな俺達を毎日怒るのは他でもないアイツ。
埃叩きを片手に説教するが、
なんだかんだ言ってお茶を用意してくれたり、うたた寝していればそっとタオルケットを掛けてくれたりして、
本当に世話好きだと思う。
夕方にはアイツが俺と神楽の為に夕飯の材料を買いに行ってくれるので、
時々気が向いた時に一緒についていく。
タイムセールがどーのこーの言ってる傍で少し駄々を捏ねて甘い物をねだると叩かれる。本当は甘い物なんていらない(欲しい時もあるけど)が、アイツがこうして俺と話してくれるのが楽しくて仕方がない。
あ、決してMじゃないからね、銀さんは。
そうして買い物を済ませて、夕飯を作るアイツ。
俺は料理が出来上がるまで神楽と事務所のテレビを観る。
何気ない日常。
それは最近“日常”になった。
前までは“非日常”だったはずなのに。
アイツは…どうなんだろうか。
神楽もそう思ってたり、するのか。
「ご飯できましたよー」
思ってたらいい、なんて思ったり。
そして夜7時にアイツは実家へと帰る。
この時は酷く寂しいと感じる。
「後はお願いしますね」
「おう。また明日な」
「はい、おやすみなさい」
そんな日常が続くと思っていた。
この幸せが当たり前になって、
失うのが怖いとまで思ってしまっていて、
だからこそ護ろうと思っていた。
この幸せを、この家族を、アイツを……
しかし、それは一本の電話で脆くも崩れさる。
朝6時。
爆睡していた俺を起こしたのは事務所の電話。
ビクリと身体が跳ねたが、怖いからじゃない。断じて。
無視を決め込んでいたが、中々鳴りやまない。
安眠を妨害されたことに苛立ち、仕方なくまだ眠気が覚めない身体を無理矢理起こして事務所へと向かう。
“間違い電話とかだったらぶっ殺す”
頭の中で物騒な考えをしながら受話器を上げた。
「はいこちら万事屋銀「銀さん!!」
それはアイツの姉だった。
そしてその慌てぶりに俺の背中がゾクリと震えた。
「どうかしたか??」
平静を装って落ち着かせるように次の言葉を促した。
「新ちゃんが帰ってないみたいなの!!」
それはまるで死の宣告を受けた患者のように衝撃があった。
“新八が??”
昨日はいつも通りだった。
何処へ行くとも言ってない。
アイツは真面目だから、そんな事があれば姉の仕事場まで電話を掛けるくらい律儀だ。
それがないと言う。
俺は寝間着のまま外へ出た。
何かの勘違いであってほしい。
願ってやまなかった。
「新八ー!!!!!!」
既に陽は昇って、朝日が歌舞伎町を照らしていた。
だが、無情にも見つからなかった。
どんなに捜しても、
アイツの姿はなかった。
今までにない、こんなこと。
お妙と、無理矢理叩き起こした神楽と3人で隈無く新八を捜したが、
やはり見つからなかった。
「はぁっ、はぁっ」
息が乱れる。
嫌な予感が頭から離れない。
冷静になるべきだと感じた。
アイツの通りそうな道、全て回った。
“何処にいやがんだ新八!!”
そしてふと視界に黒に身を包んだ奴等が入った。
見知った顔はなく、ただ単に巡回のようだった。
“…アイツに直接聞きに行くか………”
何かに巻き込まれてなければいい。
アイツの恋人が何か知っているかもしれない。
俺はすぅっと深呼吸して、また足を走らせた。
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