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□『上司が馬鹿だと部下はしっかりする』
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類は友を呼ぶってよく言うけど、
本当に銀さんの周りには変な人たちがたくさんいる気がする。
夜兎の大食い少女を始め、
ババアだったりゴリラだったりドSだったり…
多すぎて数えきれない。
僕はもちろん普通だよ。
『上司が馬鹿だと部下はしっかりする』
今日は近くのスーパーがセールで、夕方だと人だかりが出来て欲しいものも手に入らなくなる。
毎日限られたお金で遣り繰りしなくちゃならないから、こういうセールを逃がしたくない。
だから大量に買い込んでしまうんだ。
そりゃ育ち盛りの女の子がいるんだし…
(もはやその領域を超えてる気がするけど)
僕も食べないわけじゃない。
駄目な上司も腹が立つくらい食べるから、大量に買い込んでも損はない。
だけど…
「買いすぎちゃったな…」
両手には物が溢れそうな程入っている買い物袋を持っていた。
それもかなりの重さで、日頃の家事で手荒れが酷くなった僕にとって辛いものがある。
すぐにあかぎれが出来てしまって痛い。
本当は買い物に銀さんもついてきてもらおうかなと思っていたけど、
昨日珍しく依頼が入って朝方に帰ってきた為、あまりよく寝てないみたいだったからそのまま寝ててもらった。
神楽ちゃんは定春と共に何処かへ遊びに行ってるようで家にはいない。
結果的に僕一人で買い物に行かなくちゃならなかったんだ。
重い荷物を持ち上げて、痛む手を『武士なんだから我慢我慢…』と励ましながら、少しフラフラしつつもなんとか歩いていた。
「おいそこの眼鏡止まれ」
「誰が眼鏡だコノヤロォォォォォォ!!!!!!」
その単語に反応した僕はすぐさまツッコミを入れた。
その発信源は自分の後ろからで、振り向くと見知った人がいた。
「土方さんじゃないですか」
「おう」
鬼の副長と呼ばれる土方さんがそこにいた。マヨネーズを型どったライターで煙草に火を点けながら僕に向かってきた。
「こんにちは。巡回中ですか??」
「まぁな。ついでに総悟の野郎も捜してんだが…アイツがいるとこ知んねぇか??」
「今日は見てないですね…。いつもご苦労様です」
この人が部下に頭を悩ませているのは知ってる。
大変だなぁなんて思ってるけど、実はそんな部下を僕が匿ってたりすることもあるから罪悪感が少しあったりする。
まぁ今日は沖田さん見掛けてないけど……
ふと土方さんの方をみると、土方さんの目線が僕が持ってる荷物にいっていた。
「あ、買いすぎちゃったんですよコレ。セールになったら買いだめしちゃうんですよねー」
「いやそれじゃなくて…」
「??」
「血、出てんぞ…」
「え??あ、忘れてた…」
ひび割れから血が滲み出ていて、スーパーの袋に所々付いていた。
あかぎれなんて日常的にあるから気にしない為、いつの間にか放置していることが多い。
「こんなの気にしてたら家事なんて出来ませんよ」
「…………」
「??…土方さん?」
僕の手を見つめたまま、何やら考え事をしている土方さん。
呼び掛けてみるがしばし無言。
すると何か思い出したように、銜えていた煙草を地面に落とし、それをグリグリと足で踏みつけて消した。
「まだ時間あるだろ。ここで待ってろ」
「へ??あ、土方さん!!」
「すぐ戻る」
そう言いながら足早に何処かへ行ってしまった。
ポツンとその場に残された僕は荷物を持ち直しながら、言われるがままそこにいた。
“一体何なんだろう…??早く帰らないと神楽ちゃんに殴られるよ…”
しかしあの鬼の副長を怒らせる勇気なんてない。
僕は大人しく待っていると、10分くらいで土方さんは戻って来た。
…何かを手に持って。
「ほら」
「え??」
差し出されたのは薬用のハンドクリーム、
名は魔斗離ッ苦守(マトリックス)。
「これ…」
「痛むだろ。それ付けとけ」
「いやでも…」
「あぁもう!!荷物地面に置け!!」
強引に荷物を下ろされ、僕の手を包み込むように手を掴まれた。
そして真新しいハンドクリームを少量手に取り、まんべんなく僕の両手に広げてくれた。
「…………」
「…痛かったら言えよ」
ヌルリ
ヌルリ
クリームの感触と、土方さんのゴツゴツした男らしい手の感触が、何故か酷く心地よかった。
「お前…小さい手だな…」
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