執事編

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「今日という今日は絶対に来てもううからね!」

「・・・なんで私なんだよ」

「いいから!ほらっ、授業も終わったし行くぞォォ!!」

「黄泉の国?」

「違うわ!!」

私の友人、香奈がこんなにもはしゃいでいる理由・・・それは最近できたとされる人気爆発中の執事喫茶にはまっているからなのだが、どうして私まで巻き込まれるんだか。
まぁ恐らく、というか100%私が男に関心がないからなんだと思う。
ほら、取られる心配がない的なアレですよ。

「着いたー!ほら、行こ行こ!」

「はいはい」

店内に入るととても落ち着いた雰囲気でとてもいい香りがした。

「お帰りなさいませお嬢様」

出迎えてくれたのは眼鏡をかけた黒髪の可愛らしい少年。
席まで案内してくれてメニューを丁寧に置く。
緊張しているのか不器用なのかなんとなくぎこちない。
店内のシステム説明をしてくれると香奈がそれを遮った。

「あ、私ここの常連だからそういうのいらないよ。・・・常連の客の顔くらい覚えなよ」

「あ・・・すみません・・・」

おーい香奈さーん?いくら常連だからってその言葉の選択は完全にミスしてますよー。
ケアレスミスどころじゃないんですけど・・・。

「私、メロンソーダとチョコレートケーキ。総悟くんご指名でよろしく〜」

「かしこまりました。あの、お嬢様のほうは・・・」

「ふぇ!?」

やば、ぼーっとしててなんにも考えてなかった。

「あ、すみません。驚かせてしまって」

「いえ、そんなことは・・・えっと、じゃぁアールグレイを・・・」

「・・・ご指名はなしでいいんですか?」

あ、指名なしって失礼だったかな。
でも誰が誰だかわかんないのに指名したって話すこともないしなぁ・・・。

「あ・・・後でご指名します」

「くす・・・かしこまりました」

おかしそうに笑うとメニューを提げ、カウンターに向かった。
やっぱり笑うと可愛いのね、彼。
なんだコレ、母性本能?
いやいやいやいや私にそんな女々しいものはない!!

「なーに一人で葛藤してんのよ」

「あ、ごめん」

「ホントおもしろいわねー執事も指名しないし」

「いや、だって誰が誰だかわっかんないし・・・。そういえば香奈の指名した総悟くんって・・・?」

「あー総悟くんは・・・」

「お待たせしやしたお嬢様」

「きゃぁぁ!総悟くんっ」

ものっそい猫かぶり・・・。
色素の薄い瞳と栗色の髪を揺らし香奈のもとに注文した品を手際よく置くと優雅に席につく。
でもなんだろう・・・この違和感。
営業スマイルなんだろうけどそれとはまた違う・・・。

「私、いっつも総悟くんのことばっかり考えちゃって眠れないんだよ〜」

「そいつァ嬉しいでさァ。眠れるように香奈様の夜に付き合いたいもんですねィ」

「〜〜〜っ!」

あーあ赤面しちゃってまぁ。
なんとなく居心地が悪くなり、席を立とうとした瞬間。

ガシャーン!!

「!!」

「何!?」

香奈も私も驚いて音のした方を振り返った。
すると常連客なのか化粧の厚いブロンドヘアーの女性にカクテルの入ったグラスごと投げつられうずくまる先ほどの眼鏡の少年がいた。

「ちょっと!!アンタ酒つぎもできないの!?信じらんない・・・!このドレスも汚れちゃったじゃない!!」

「・・・す、すみません・・・」

「謝るだけならいくらだってできるわ。弁償代、出しなさい。それから銀に迷惑かけた罰金も」

銀というのは恐らく女性の隣に座っている銀髪のここの従業員であろう人物のことだろう。
同じ従業員の眼鏡の男の子を助けることもせずただじっと冷めた瞳で見下していた。
・・・何様なんだ・・・。
そんなことより、なんでここの従業員の誰一人として彼を助けないの?
総悟という男もただ見つめているだけ。
香奈は私にそっと耳打ちしてきた。

「ねぇ、なんかあの厚化粧の女といい、眼鏡くんもヤバイんじゃない?」

「・・・そういわれても・・・」

私は従業員の人を目だけ動かして確認した。
銀髪の男。
総悟という男。
黒髪で切れ目な男。
長髪の黒髪を緩く結んでいる男。
眼鏡の少年と似た雰囲気の青年。
サーモンピンクの長髪を三つあみにした青年。
他にはいないみたいだ。

「黙ってないで何か言ったらどうなのよ!!アンタ、ここの店にいる必要ないわよ。かっこよくもないくせに」

今度は自分の高級そうな真っ赤なヒールを投げつけようと腕を振り上げた。
周りのお客は悲鳴をあげるもそれを機に執事たちに甘く擦り寄っていた。
それは香奈も同じで・・・

私は頭で考えるより先に動いていた。
執事の誰かに媚びるのではなく、叫ぶわけでもなく、怒鳴るわけでもなくただ・・・

ガッ!!

「!!??」

「・・・っ」

突っ込んだ。
彼に当たる前に飛び出したためそのヒールは私の額に当たった。
血はでてなくてもさすがに痛いや。
眼鏡くんは瞳孔を開いて驚いていた。

「なっ・・・何やってるんですか!」

「・・・アンタ・・・誰?ブサイクが来るとこじゃなわよ」

はんにゃみたいな形相の人に言われたくないんですけど。
でも・・・今はそんなことより・・・

「これ以上やったら・・・死んじゃいます・・・」

「はぁ?常連でもない餓鬼がなにいってんの?それにそいつ、執事じなくて雑用でしょ?」

「そうですよ・・・僕は執事として指名を受けたことなんてないし、雑用係・・・」

「・・・です・・・」

「何かいったかしら?」

「?」

「・・・私が指名した執事さんです!!」

「お・・・お嬢様!?」

「彼は私が指名したんです。彼も立派な執事さんです!そうですよね、眼鏡さん!」

「いや、新八です」

「ばっかみたい。名前もろくに知らないくせに指名しただなんて。でもあんた達お似合いねぇ。ブサイク同士で」

そう言うと周りもくすくす笑い始めた。

「レイお嬢様」

すると今まで黙っていた銀髪の・・・銀と呼ばれていた男が私たちを侮辱していた女性の名前を甘く呼び、耳元で何か言う。
そして顔を赤らめ、また来るわねと言って機嫌良さげに帰って行った。
周りの女性も執事の人たちに何か囁かれ、気分良く帰宅していく。
なんなのだろう・・・。

「あの・・・」

「あ、大丈夫?眼鏡くん」

「いや、だから新八です」

「あ、ごめん・・・!」

つい癖になってしまっていた。
ポケットからハンカチを取り出し、新八くんの塗れた頬を拭いてあげた。

「お・・・お嬢様っ、これくらい自分で」

「手から血まででてる・・・!ちょっ、アレ、絆創膏」

「いやいやいやいや貴女の額からも血ィ出てますから!!」

「え?あーだいじょぶだいじょぶ」

「いやいやいやいやダラダラ垂れてますから!!流血ハンパないですから!!」

お互いにハンカチで拭きあっていることに今更気づきなんだか恥ずかしくなった。

「・・・あの・・・」

新八くんが照れくさそうに私と向き合い顔を真っ赤にしながら

「さっきは・・・あ、ありがとうございます」

「・・・っ」

うん。やっぱり彼は執事むいてるよ。
可愛いもん。

「あの・・・さっきの言葉・・・ご指名・・・いいんですか?」

「・・・!ふふっ、もちろん!」

新八くんに笑顔でそういえば一層顔を赤らめた。
そして笑いあって、互いの傷を手当した。

このお店の本当の姿など、執事たちの狂気になど、気づくこともなく。





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