ハンターだって人間です

□終わらぬ弔い
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「アルト。私たちずっと仲間だよ。」
「馬鹿か?ずっとなんて無いんだよ。」
確か、あいつは泣きそうな顔して笑った。
そんなこと無いって反論しながら笑った。
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もしも世界の全てが
アルトの敵になったら、
兄ちゃんが蹴散らしてやる。
お前は大切な妹だからな。
この太刀に誓ってやる。
『お前を絶対守る』
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「レインドールは英雄さ
銀の火竜に挑んで散った
彼は最高のハンターさ
ただ仲間に恵まれなかった
ガンナー共は彼を見殺し
親友さえも逃げ出した
悲しい英雄レインドール。」
 子供が唄ってる。
声変わり前の澄んだ声で。
私は近づいて子供に話しかけた。
きょとんとした顔で子供は私を見る。
「なぁに?」
「んとね、その唄好きなの?」
 子供はにっこり笑った。
「うん」
可愛らしいふくふくとした男の子。
「可愛そうな唄だね。」
「お姉さんはこのハンター知ってる?」
「知ってる。
とっても強いハンターだよ。
でも、この唄は間違ってるけどね。」
 夕暮れの薄暗い街は次第に夜へと変わっていく。
「なにそれ、知りたい。
これほんとに間違ってるの?」
私は笑う努力をした。
「うん。違うんだ。」
「聞かせて。お願いお姉さん。」
 空にはもう一番星が瞬いて、
家の窓は中の明かりをぼやかしている。
「今は遅いからねぇ。
明日、街の北奥の
路地の手前の家に来れる?
表札が架かってない家、わかるかな?」
 子供が頷いたので、
家に帰るように促した。
この街は治安はかなりいいけれど
親からしたら帰りが遅かったら心配になるだろうから。
 私はその足で酒場に入った。
街にはいくつか酒場があるけど
ギルドが併設されてるのは一箇所だけ。
クエストを見るついでに、何か飲みたくなった。
「あらアルトさん、久々ねぇ。
火竜討伐したんですってね。
おめでとう。」
 酒場内に響くこのギルドマネージャーの声に、ざわめきが広がった。
迅雷か
あの孤高の迅雷が火竜を
アルトっていやここらで一等有名じゃないか、組んでみたいもんだ
 私が入る前の話題に戻ればいいのに…
うざったいな、こういうの。
「ライ麦酒一つ」
 注文のみ言い、
カウンターでジョッキを貰って
ギルドマネージャーのまとわり付く台詞を潜り抜け、
中央のテーブルに着いた。
このテーブルは私の指定席。
いつも此処に坐るんだけど、
今回は他のハンターたちが坐っていた。
先客のグループの一人が、
茶化すように口を開く。
「アルトって、
孤高の迅雷アルトなのかい?」
「だったら?」
 下品な男だ。お師匠とはほんと雲泥の差。
無精ひげが目障り極まりない。
「流石、武器がいいだけある。
いい武器がありゃ火竜だって狩れるわな。
背中の鬼斬破は形見なんだろ。」
 さも、私だけの実力じゃないと言わんばかりの語調で、言われるもんだから、
とりあえず淡々と切れた。
こんなことを言う奴は腐るほど居た。
ほとんどは下位ハンターのひがみだ。
だからあくまでも冷静に罵倒し返す。
「いい武器を活かせる体術があるから
狩れたんだよタコ。
糞の避けらんねぇ糞ガンナーの癖に
挑発してんじゃな粕。
臭うんだよね。消臭玉も使えないの?
使えないかぁ。粕だもんねぇ。
お仲間の雑魚たち連れて
火竜討伐でも行ってきたら?
そんでその無精ひげ焼いてもらえ。
少しは見れる顔になるから。」
 矢継ぎ早に流れる暴言を止めたのは
粕ガンナーが振り上げた拳でも
それを叩き斬ろうとした私の鬼斬破でも
割って入ろうとしたギルドマネージャーでもなかった。
止めたのは、
粕ガンナーの連れだった。
「女の子が汚い言葉だぁめ。」
 後ろから唇を手で塞がれた。
花の香りが微かに香る指に気をとられ
言葉が出なかったんだ。
「ゴゴヴさんも言いすぎ。
彼女だって立派なハンターなんですよ。
うんこ当ったのも事実ですし、
それに僕らは火竜狩れてないんだから
素直に賞賛すればいいじゃないですか。」
ゴールドブロンドの髪、薄い灰色の瞳…
うそ。
「コ、コ…なんでお前…」
言いかけて我に返った。
こいつは男だ。
ただ単に似てるだけ。
「ココ?僕、ティオですよ。」
ああ、知り合いに似てたんだごめん。
ティオね。ティオ、うん覚えた。と
困ったようなホッとした様な
複雑な心境で訂正した。
 女みたいなきれいな顔、
細い身体、みれば見るほど似ている。
まじまじと凝視して、
困惑を浮かべる彼から視線をはずした。
 あれ? 
前を向きなおしたら粕ガンナーと
ティオ以外の連れは居なくっていた。
「粕行っちゃったけど良いの?」
彼は私の前に腰掛けて笑った。
「いーのいーの。
どうせ今夜解散ですからあの面子。」
「ふうん。」
それしか言えなかった。
ドライなもんなんだなと思うけど
喉でつっかえた。
仕方なくライ麦酒で流し込んだけど
お腹のうえが変だった。
「その太刀大切ですよね?」
唐突すぎた質問にむせる。
何を言い出すんだこの男。
深呼吸をして呼吸を整えたら、
慣れて分からなくなった煙草の臭いがちょっと臭った。
空気悪いな相変わらず。
「大切だけどなに?」
「だったら駄目ですよ。」
WHAT?
なにがだよ、って不機嫌に聞き返した。
「その刀は、形見なんでしょ。
刀は一緒にクエストをこなしてきた
云わば誇りじゃないんでしょうか?
そんな太刀をつまらないもののために
抜刀しちゃいけません。
たとえ譲れない事だとしても…ね?」
撤回しよう。
前言撤回だ。
ココとなんて似てない。
あの馬鹿は
ここまで筋の通った話はできない。
まして、私の感情を逆撫でしないように喋れはしない。
「偉そうな事言ってすみません。
ミス・アルト...」
「レインドール。
アルト・レインドール。
敬称は付けんな。
私も付けないから。」
「分かりました。アルトとお呼びします。」
 ティオは終始笑顔だった。
防具も武器も装備していない彼は異様な存在感が有る。 
武器も持たずに此処にいるってことだけでも珍しいけど。
 こいつ本当にハンターなのか?
つか、一般人てオチじゃないよな。
そりゃないか。
思考に歯止めをかけてティオに聞いた。
「お前さ双剣使い?」
 絶対に大剣使いじゃないっていう確信はあった。
「違います。」
「片手?」
「いえ。」
「ハンマー?」
「いえ。」
「...太刀?」
「まさか。」
「......笛?」
「当たりませんね。」
 すっごく嫌な予感。
やめろ言うな!って間に合わなかった。
「ボウガン使いです。」
もし、こいつがガンナーじゃなかったら
私は普通の態度をとれたし
当たり障りないように、酒場から出ただろう。
「どうしました?大きな声出して。」
ティオは目を丸くした。
ココみたいな目で見るな。
見るな見るな見るな!!!
「アルト…?」
おぞましい、汚らわしい。
ガンナーなんぞになんで名前を呼ばれるの?
「気安く呼ぶな。」
言葉が先か、平手が先か分からなかった。
小型モンスターでも、一瞬怯む私の平手をもろに顔面に受けティオが椅子から吹っ飛んだ。
「なにすんですか?気に障ること言いましたか?」
ガンナーとなんで話さなきゃなんないの。
完全に無視し、700ゼニーをテーブルに叩きつけて店主に言い放った。
「お勘定。」
態度最悪な客なのに店主は笑顔で対応してくれた。












 店主の妻がティオにおしぼりを差し出した。
「どーぞ。冷やさないと腫れるわよ。」
「ありがとうございます。」
「アルトちゃんのこと、
無理かもだけど悪く思わないでね。」
 初対面の人間をぶっ叩いておいて印象良かったら相手はドMしかない。
もしくは相当の馬鹿。
そしてティオは後者だった。
「はい。アルト、なんだか怯えてました。
追い詰められた小動物みたいに。」
「あんな凶悪な動物はいないわ。」
 奥さん、フォロー入れるのかどうかハッキリして下さい。
「他所のハンターだから知らないと思うけど
あの子、ガンナーと馴れ合いたくないの。
意気投合してもガンナーって分かったら
悪態つきまくってバーンでドーンなんだから。」
彼は殴る動作をして擬音を繰り返す。
「あははバーンでドーンですか。
どうして?」
躊躇いなのか、奥さんの口は重かった。
「プライバシーってやつよ。
でも、昔話ならしてあげる。
[悲しき英雄の挽歌]のね。」

紡ぎしは真実。
悲しき英雄の最後。
五年前の傷跡。
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