百合SS

□私の気持ち、あなたの気持ち
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その日の部活が遅くまで続いたおかげで、校舎を出る頃には、もう空は夕日で真っ赤に染まっていた。



「夕焼けが綺麗……」



ポツリと呟かれた声の方を見ると、空を眺めるムギの横顔。

夕日に照らされたムギはいつも以上に大人っぽく見えた。

ドキドキ、と私の心臓が騒ぎだす。



「ムギのが綺麗だよ」



思わず口から漏れた言葉は、あり得ないほどクサ過ぎて。

目を丸くしたムギの顔を、私は直視出来なくなってしまった。

冗談だと思ってくれれば良いんだけど。



「……」

「……」



私としては好ましくない、沈黙が続く。

思ったことがすぐに出てしまうこの口を、こんなにも恨んだのは初めてだ。

やがて、ムギが口を開いた。



「りっちゃんも輝いてるわ」

「どこ見て言ってんだコラ」



ホッとしながら悪態をつく私。

張りつめていた空気が緩んだのか、ムギはまだ私のおでこを見ながら笑っている。




「髪、おろしてみる?」

「いーよ、うっとおしいから」



私の口からも笑い声がこぼれた。

ひとしきり二人で笑いあった。

そして、また静寂が訪れようとしたとき、ムギが真剣な顔をしてこう言った。



「りっちゃん、私わかってるわ」

「……」

「でもこのままで、ね?」

「……うん」



きっとそうだろうと思ってたよ。

私の気持ちは、全部見透かされてるんだろうって。

夕暮れの帰り道。

ムギは空を、私は地面を見ていた。





――このままでいたい。

  これ以上近づくことも、

  離れることもなく。





END
 

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