色々な恋歌

□始まる物語
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それは本当に偶然だった。
いつものように軽く酒をあびながら適当な女性を口説く。

そんで俺よりミハに興味を示す女性に苦い顔をした時に聞こえてきた話し声。


「そうね、マイセンは馬鹿よ。」

「だヨネ。」


何だ、その失礼な会話は…と思うより先に何故かプリンセスがユウと仲よさ気に話しているのが気になった。


「でも、頭は悪くないわ。寧ろ良い方じゃないかしら。」

「そうかナ?」

「ええ。」


悪口なら本人のいないとこで、と話に割り込もうとして止めた。

プリンセスの話の続きが聞きたい、そう思った俺は聞こえていない振りをしながら次の言葉を待つ。


「どうしてキミはそう思うノ?」

「普段のアイツを見てたら分かるわ。自分がどのポジションにいれば良いかわかってる。軽いけど、嘘はつかない…けれど、真実を嘘のように言うのがとても上手い人よ。」


ギクリ…とした。喉が渇いた。知らぬ内に手に汗をかいていた。


「どれだけ近付いても透明な壁を作って自分の心には一切触れさせない狡い人。
いえ、馬鹿な振りをして本心を隠してる賢くて臆病者かしら。」

「キミはマイセンの事を良く見てるネ。」


否定も肯定もせずに静かにユウが返せば、くすっとグラスを傾けながらプリンセスが微笑う。

ゾクリとするほど、綺麗だと思った。


「そう仕向けられたのよ。ギルカタールのプリンセスである私が罠に堕ちるなんて不覚だわ。」


ゲームに負けた、まるでそんな風に話すプリンセスに俺の鼓動が早くなる。


「…類は友を呼ぶ…貴方も同類ね、ユウ。もちろんミハエルもね。」


そう呟くとカタンと静かに席を立ち、ユウに笑顔を向けた。

その笑顔があまりに寂しそうで、何に対してか分からぬ苛立ちを覚えた。


「…キミは類友じゃないのカイ?」

「やっぱり同類ね…。ユウゼドリアマナトナデナラドナ=フィオレントナグリアさん、私は馬鹿な振りなんて出来ないのよ。」


ユウの長ったらしい名前…覚えててわざと呼ばなかったのか。
そこに何の意図があるのか…それは次のプリンセスの言葉で解った。


「笑顔で突き放す残酷で冷たくて…優しくて哀しい人。私は仲間入りはごめんだわ。じゃあね。」


ヒラヒラと手を振って酒場を後にするプリンセスを見つめながら、何かのスイッチが入った音がする。

初めて、そう今初めて、プリンセス自身に興味を覚えたんだ。

浚いたいと思った、手に入れたくなった。その心に触れてみたくなった。

理由なんて十分すぎる程に揃ったじゃないか。

知らないなんて言わせない、ゲームの引き金をひいたのはプリンセス自身だ。

さあ、ゲームの始まりはここから。
どっちが勝つか人生を賭けようぜ。

な、賢くて少し優しすぎるお姫様。



Fin.


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