『海と狐』
□**時間**
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「先生、ここじゃ冷えるから中に入るってば。」
大きく扉を開いて、ナルトは俺を部屋へと招き入れてくれた。
テーブルにつき早速包みを開け始めるナルト。
どうやらさっきよりは、機嫌が治ったみたいだ。
よかった…。と俺は胸をなでおろす。
包みの中身は、ナルトが修行先から送ってくれた手紙の返事と、一緒に祝えなかった二回分の誕生日プレゼント。
まぁ、気に入ってくれるか分からないけど…。
「…先生。これって?」
「これは、ナルトがくれた手紙の返事。お前旅しながらだったから、ちゃんと届くか心配で返事遅れなかったんだ。ごめんな。あとこの二つは、二年分の誕生日プレゼント。気に入ってくれるといいんだけどな…。」
チラッと横目でナルトの様子を伺ってみる。
ナルトは大事そうにプレゼントを胸に抱え、今にも泣き出しそうな顔で笑っていた。
「ありがとう、イルカ先生。俺ってば本当はスゲー不安だった。自分だけ先生のこと思ってるんじゃないかって。こんなに会えない時間が長いと、先生俺の事忘れちゃうんじゃないかって毎日不安だった。」
ナルトの本音を聞いて、不安がっていたのは自分だけじゃない事に安心した。
その反面、気持ちが分かっていながら余計に不安がらせた事に申し訳ない気持ちになる。
大切そうに手紙を見つめているナルトの腕を取り、引き寄せる。
「俺も不安だったよ。お前がいなくなって一人あの部屋にいると、どうしようもなく寂しくなった。お前の事ばかり考えてたよ。不安にさせちゃってごめんな。」
強く抱きしめながら、腕の中のナルトに向かって気持ちを伝えた。
もっと早くこうしていれば良かった…。
腕の中にいる子供の金の髪に顔を埋めながら、そんな事を考えていた。
金色の髪からは、二年前と変わらずお日様のいい匂いがした。二年ぶりに感じる香りが、安心感、幸福感に変わり体中に染み渡っていく。
「お帰り、ナルト。」
改めてそう告げる。
また俺の元に帰ってきてくれてありがとう。
そんな気持ちを込めて、優しくナルトの額に唇を落とした。
「ただいま、イルカ先生。」
ナルトは、『ずっと待っていてくれてありがとう。』の意味を込めて、イルカの頬にキスをした。
お互い顔を合わせて笑い合い、
「「これからも、一緒だよ。」」
と思いを伝え、どちらからともなくついばむような優しいキスをした。
ナルトが部屋に残していった香りの中、一人いつもと変わらない毎日を送っていた昨日までが、この瞬間全て報われたような気分だった。
昨日までの自分がいたからこその安心感。
もう手放したくない。
永遠を夢見るほど子供ではないけれど、自分の人生が続く限り、この腕の中の愛しい子供の笑顔を見ていたい。共に幸せを感じていけたらと思う。
この思いを何時までも忘れないように、不安になっても今日のこの時を思い出せるように…。
胸に焼き付けるように、抱きしめる腕に力を込め、お日様の匂いを胸いっぱい吸い込んだ。
この幸せな時間が何時までも続きますように…。
−END−