『海と狐』

□**時間**
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日も暮れ始めたころ、イルカは夕日を見ながら一人家路をたどる。
今日の夕食は何にしようか?気づけば朝軽く食べた岳で、何も食べていない。
一人で外食する気にもなれず、惣菜を買って家で酒でも飲みながら過ごす事にした。

買い物を済ませ、アパートの階段を登る。
ふと視線を前に向けると、自分の部屋の辺りに誰かが立っている。逆光のせいで顔がよく見えない…。
一瞬歩みを止めて、自分の前に立っている人物をしっかり確認する。

 「!ナルト…?」

信じられない。でも今、自分の目の前に立っているのは紛れも無い本人だった。

背が伸びたな、体つきも逞しくなった。顔つきも大人びた。二年前よりも、自身に満ち溢れた笑顔が強くなった事を物語っているようだった。

 「お帰り、ナルト。」

優しく微笑んで語り掛ける。なんだかまだ信じられないでいる。

 「ただいま、イルカ先生。」

以前までの人懐っこいしゃべり方ではなく、少し落ち着いた話し方。少し低くなった声。

近くまで歩み寄って、そっとナルトの頬に手を添えてみる。手の平から伝わってくる温かさ。

「夢じゃない。」と実感できた事が嬉しかった。
ナルトの顔を見ていたら、懐かしさと嬉しさで涙が出そうになる。そんな自分を見られたくなくて、思わず俯いてしまった…。

ナルトは自分の頬に添えられている手をそっと掴んで、イルカの指先にキスをした。

 「懐かしい…。イルカ先生の匂いがするってば。」

イルカの手を両手で包み込みながら、嬉しそうに微笑む。

長いと思っていた二年が、寂しいと思っていた一人の時間が、ナルトの笑顔一つで忘れ去られてしまう。たまらずナルトを抱きしめた。
存在を体全体で感じるために。大きくなったといっても、まだ自分のほうが背だって、体つきだって大きい。
自分の腕の中にすっぽりと納まるナルトの体を優しく抱きしめた。

 「背、大きくなったな。」

 「うん。」

イルカの腕の中で、自分の体伝いに響いてくる声が心地よくて、懐かしくて胸に顔を埋めながらナルトはうなずいた。

 「よし、久しぶりに二人で一楽にでも行くか?」

暫くして、イルカは提案した。

 「うん。俺ってばラーメン久しぶり♪」

ナルトは嬉しそうに微笑む。

本当はすぐにでも深く抱きしめたかった。
自分がどんなにもナルトを待ち焦がれていたかを知って欲しかった。
離れていた空白の時間を埋めたかった…。

でも、そうしなかったのは離れていた時間が「信じる」気持ちを弱くさせてしまったから。
「信じて待ってる」といくら言い聞かせても、ナルトとの再会の時になってみれば、こんなにも自信がなくなってしまうなんて思わなかった。

昨日までそばにいた人がいなくなって、触れることも出来なくて、自分が想像した以上に寂しさは心の中で溢れかえって、気持ちをかき乱され揺るがされる。
不安に押しつぶされそうになる、自分の弱さが嫌になってくる…。


一楽では、昔のように話しながら二人並んでラーメンを食べた。
帰り道でもナルトの話は尽きることなく、今までの旅の話が続いていた。
気がつけば、もうイルカのアパートの前。

沈黙が二人を包む。

 「今日は疲れているだろうから、ゆっくり休めよ。」

沈黙に絶えられなくて、言葉を発したのは自分のほうだった。
本音は言葉に出来なくて、ナルトの言葉に期待する。
自分はなんてずるい大人だろう…。

自分の言葉に、ナルトの表情が一瞬曇った気がした。
でも、気づかれまいとするように、すぐに笑顔を作って言葉を続ける。

 「うん、わかったってば。今日は帰ってゆっくりする。」

「お休み、イルカ先生。」そう言って、ナルトは自分の家に帰っていった。

ナルトの寂しそうな顔が頭から離れなくて、素直になれない自分に改めて腹が立つ。
弱さを見せない甘え下手なナルト。お互いが少しづつ歩み寄れば、こんな寂しい夜は過ごさなくもいいのに。
それが出来ずに、お互いの不安ばかりが大きくなって行く。
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