『日記にてSS』

□爪きり
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パチン、パチン。

居間の方から規則正しい音がする。
その音を聞いて、隊長が爪を切っているんだと分かった。

何故だか知らないが、彼はとてもこまめに爪を切る。

2週間前くらいにも爪切ってた気がするんだけど…。

何故そんなに??

気になりだしたら確かめたくなって、爪を切っている後姿に近寄った。

「あの、隊長?」

「ん?」

「隊長って、爪きり好きなんですか?」

突然の問いかけに、隊長は作業をする手を止め、僕のほうに視線を向けた。

「別に好きなわけじゃないけど…。」

そう答えた隊長は、「何でそんなことを聞くの?」と言わんばかりの表情でこちらを伺っている。

「だって、この間もつめ切ってましたよね?すっごく丁寧に。ヤスリかけた後、引っ掛かりが無いか指で確かめてたじゃないですか。」

「サイ、そんなことよく覚えてるね…。」

指摘をされて恥ずかしかったのか、隊長の顔が少し赤くなる。

「で、どうしてそんなに気にするんですか?爪。」

再度、疑問をぶつける僕。

「言わなきゃダメ?」

どこか言いにくそうな隊長を見て、僕の疑問は膨らむばかりだ。

「隊長の事は、何でも知っていたいんです僕。」

少し上目使いで、恥じらいながらお願いする素振りをみせる。
なぜだか隊長は、こうするといつも僕の言う事を聞いてくれるのだ。

「えっと…。」

それほど言いにくい事なのか、隊長は迷いながら話し始めた。

「あのさ、その…サイを傷付けたくないから、こまめに爪切るようにしてるんだよね。」

予想外にも、僕のためだと言われて驚いた。
でも、正直意味が分からない…。

「どうして隊長が僕を傷つけるんですか?」

できればもっと分かりやすく言って欲しい。
そう思いながら、問い返す。

「だから!夜、サイとする時に爪が長いと痛いでしょ、色んな所が。その…、指とか挿れたときに中傷つけたりしたらイヤだからさ。」

開き直って隊長が口にした言葉に、僕は体中の熱が顔に集まったんじゃないかってほど赤くなってたに違いない。

予想外なほど恥ずかしい答えに、なんて答えたらいいのか分からなくて僕はその場で固まっていた。

「そうゆう理由なの、分かった?」

耳まで真っ赤にしながら、少し拗ねた口調で隊長は僕に言った。

コクン。

とその言葉を聞いても、今の僕にはうなずく事しかできなくて…。
少し顔を冷やそうと、静かにその場を後にした。


洗面台まで行き、冷たい水で顔を洗った。
鏡に映った、まだほんのり赤い自分の顔を見て、さっきの隊長の言葉が頭に浮ぶ。

「サイのため。」
そう言われた事が嬉しくて、自然とニヤけてしまう顔を何度も冷水で洗うのだった…。

       
    −END−

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