『海と狐』

□**時間**
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時間の流れがもどかしいときがある。

時間が止まればいいと祈った事がある。

時間が戻せるならどんなにいいかと考えた事がある。

今は早くこの時間が過ぎてくれたらいいと願っている。



この部屋はこんなに広かっただろうか?
このソファはこんなに大きかった?
一人の時間は今まで何してた?

自分の部屋なのに、ナルトがいなくなっただけでこんなにも違って見えるものなのか…。
静かな部屋を眺めながら、もう何度同じ事を考えただろう。

ナルトが修行に出てもう2年が過ぎようとしていた。
今まで一緒に過ごしてきたナルトが、この部屋から姿を消して、2年あまり。
この時間はイルカにとって、長く寂しいものだった。

久しぶりの休日。
イルカは得にする事も無く一人部屋を眺めていた。
思い出すのは、ナルトと過ごした日々のことばかり。
今座っているソファだって、二人でゆっくりくつろげるように一緒に買いに行った物だ。

風呂上りに一緒にアイスを食べながら、今日の出来事を話したり、二人で昼寝したり…。
幸せそうな笑顔で、真っ直ぐに自分を見る青い綺麗な瞳。触るとフワフワで、かすかに日向の温かいにおいがする金色の髪。
そんな思い出ばかりが頭をよぎってしまう。

今はそんな日々とは裏腹に、一人ソファに座っている自分。もう二度と会えなくなった訳じゃないのに、あえない日々が不安や恋しさを募らせて。自分の中でナルトの存在が大きくなっていく。

せっかくの休みなのに、このまま一人この部屋で感傷に浸っているのは心苦しくなり、思考を切り替えるために熱めの風呂にゆっくりつかることにした。
この部屋には思い出が多すぎる…。

風呂から上がり、冷たい水を飲みながら窓を開ける。
空は晴れ渡り、気持ちいい秋の風を全身で感じる。

服を着て、髪を結い上げ、行き先などは決まっていなかったが、外に出ることにした。
風呂上りの火照った体には秋の風が心地よかった。

空を見ながら当ても無く歩いていると、以前よくナルトと二人で来た丘にたどり着いた。

 「懐かしいな…。」

ポツリと呟き、一本の木の根元に腰を下ろす。
丘の上からは綺麗に色づいた山々が見える。
二人で日が暮れるまで、ここで過ごした日のことを思い出す。
結局、どこに行っても思い出すは笑顔の少年の事ばかり…。

ナルトは今日も修行を頑張っているのだろうか?
一日も早く友を助けに行けるように、少しでも追いつけるように、自分の大切な人たちを守れるように。
今度会うときは、どんなに逞しくなっていることだろう…。大人っぽくなっているのだろうな…。
今までのように、自分に甘えてくれるだろうか?
ナルトの気持ちは変わってないだろうか?
無邪気に笑って「好き。」と言ってくれるだろうか?

成長したナルトに再会するのが楽しみな反面、離れていた時間の分だけ不安がつのり、「信じる」気持ちを揺るがす。

この二年、幾度と無くナルトからの手紙が届いていた。
そこには、今は何処にいて、どんな修行をしているとか、ここの温泉は凄く景色が綺麗だったとか、そんな他愛も無い内容のものだった。
恥ずかしがりで、強がりのナルトらしい手紙。
弱音なんかも一切書かれてはいなかった。
彼の性格からすれば分かる気もするが、なんだか自分だけ待ち焦がれているようで、寂しい気持ちになっってしまう…。

 「どうも一人になると、マイナス思考になってダメだなぁ…。」

一人呟いて苦笑する。

 「きっと大丈夫。ナルトは何にも変わってない。信じて待っていればいいんだ。ナルト、頑張って強くなれ。」

空を見上げ愛しい教え子の笑顔を思い出す。
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