another ss

□雨と黒猫
2ページ/3ページ

とりあえず、バスタオルと一緒に猫を風呂場に押し込んだ。
すぐにシャワーの音が聞こえてきたのを確認して、俺はフェイスタオルで湿った髪を拭く。
(よくオレンジ頭で教師とかやってるよなぁ、俺。)
そのまま居間でタバコを拾って火を付けてから台所へ。
ほぼ空に近い冷蔵庫から牛乳パックを出して、中身を鍋へ注ぐ。

(名前、なんていうのかな。教えてくれるかな。)

沸騰させないように注意しながら、置きっぱなしにしてある缶の灰皿に灰を落とす。
小さな食器棚からマグカップを二つ出して、片方にだけコーンスープの粉を入れた。

箸を買わないといけない。
あと洋服とか、枕、たぶんタオルも足りなくなるし。
(着ていた服は明日のゴミで出そう。)
狭い部屋に荷物が増えるのに、何だか嬉しい。

ペタペタと後ろからフローリングを歩く音がして振り向くと猫がいた。
大きなタオルで頭をガシガシと拭くだけで、やっぱり鳴かない。
何も着てないせいか、浮いたあばら骨なんかが更に細さを際立たせた。



「ごめんごめん、今服出すから。」



鍋の火だけ止めて、部屋の奥の棚まで急ぐ。
新しい下着と黒い上下のジャージを引っ張り出して手渡すと、大人しく袖に腕を通した。
サイズもピッタリで、これなら暫くの間俺の部屋着を着せてしのげる。

俺はスーツの上着を適当に投げてネクタイを緩めたあと、短くなったタバコを揉み消して鍋の中の白をマグカップに移した。
猫は相変わらず何も言わずに、ただそれをじっと見ている。
さすがにそのままにしておくのも悪いと思って、テーブルを指差して座って待っててと声をかければ、すんなり言うことを聞いた。
(…いいこだな。)
両手に一つずつカップを持ってテーブルの傍まで行き、中身の白いほうをそっと渡すと両手を伸ばして受け取った。

不意に、たおやかな指がざっくりと黒髪を掻き上げる。
俺はそれを美しいと思った。






次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ