another ss

□青年マイナス1:七つ下の場合
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まほうのめ。
まほうの、め。
人を惹き付ける魔法の目。

じゃあこの五月蝿い心臓も、静まらないざわめきも、魔法にかかったとでもいうのか。

馬鹿げている。
コンマ一秒でそんな魔法にかかるなんて。
でも、たぶん、
それは本当だ。



「だからアイツは、ほとんど人と関わらない。」

「…関わらない?」

「人の目を見ようとしないし、人を寄せ付けないオーラを出して、いつも一人だ。」



金髪美女は瓶が大量に並べられている冷蔵庫から一本を取り出すと、慣れた手付きで栓を抜く。
それを俺の斜め前へコト、と置くと、そのまま右手を差し出した。



「さっすがかすが、おかわりのタイミングわかってるねぇ。」



俺の左横から伸びる腕。
節が浮いていない細い指と、瓶を握る掌。
テノールの声。
オレンジの髪。
ヒマワリが咲く目。

目鼻立ちのはっきりした、綺麗な顔。

見てしまったが最後、時間が止まる。
止まったまま、動かない。



「店にいる時は名前で呼ぶな。」

「っていうか見てた?今日ハットトリック連発!」

「ならトンエイティーを狙え。」



空の瓶を女に渡して、新しい瓶を手に取って、戻っていく。
それだけの動作。
なのに、なんだ俺は。



「………顔が赤いぞ、酔ったのか?」

「い、や。…違う、大丈夫だ。」



無性に焦って、思わず目の前のグラスの中身を一気に流し込んだ。

動揺している。
すごく動揺している。
近かっただけで、動揺している。

なんなんだあのオレンジ頭、俺に何をした、今、俺に何をしたんだ。



「か、帰る。」

「会計だ。」

「また、来る、絶対来る。」

「…ああ、」

「あの、佐助ってやつ、いつもいるのか?」

「…いや、金曜の夜だけだな。」



なんで咄嗟にそんなことを聞いたのかも、
また来るなんて確証もないのに言ったのかも、
金髪美女が手に持つ瓶のラベルを確認したのかも、

店を飛び出して十分歩いてから、気付いた。

俺は馬鹿だ。
馬鹿過ぎて自分に毒も吐けなかった。







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