another ss

□青年マイナス1:七つ上の場合
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「ま、ますたー…。」

「今日は月曜日だぞ、ついに曜日もわからなくなったのか。」



ガランガランと、ありがちなドアのベルを鳴らして入店。
そのまま真っ直ぐ文句を言いたい人のところまで。



「一部始終見てたくせに、なにさ、俺の苦悩も聞いてくれないの!?」

「私には関係ないだろう。」



その通りです。
いつもカウンターでお酒作ってるだけマスターには無関係です。
でもあの子にお酒飲ましちゃった張本人じゃん。
全被害を俺が受けるっていうのに何となく納得がいかない。



「だって十代だったんだよ!?」

「いくつだと聞いたら成人してると言ったぞ。」

「ちゃんと年齢確認ぐらいしてよぉ…。」

「おまえが介抱したんだから、それでいいだろう。」



よくない。
全くよくない。
その後を知らないからって、酷過ぎる。

どうして俺ばっかり、掻き回されなきゃならないの。
平穏を返して、俺は難しいことで悩まされたくなんかない。
考えても考えても答えが出ないことと戦いたくない。

俺はどこにでもいるごく普通の会社員で在りたいんです。

いつまでもウダウダしてるなって、誰か渇入れてよ。
そしたら吹っ切れる、明日からバリバリ働ける。
可愛い子と合コンとかで出逢って恋とかしたいんだよ。



「…かすがぁ、」

「店にいる時は名前で呼ぶな。」



お願いです、誰でもいいからこの沸騰しそうな脳味噌を何とかして。
高速回転し続ける思考にストップをかけて。

今更だけど顔を殴れないなら腹を殴ればよかったんだよね。
出てくること思いつくこと全部もう手遅れで意味ないの。
怒鳴って突き飛ばして走って逃げて、なんでそう出来なかったんだろう。
黙らせる方法なんて五万とあるのに。

重症だ。
なにをどうしても、全部あの子に繋がる。



「―Master, please give tequila.」



ガランガランと聞き慣れた音と、聞いたことのある低い声。



「オレンジジュースにしておけ。」

「酔いたいんだよ。」

「迎えは来るのか?」

「隣のお兄さんに頼む。」

「………だそうだ、佐助。」



なんで来るんだ。
勝手に隣に座るな。
酒飲むな。
俺の時間を返せ。
俺の日常を返せ。

なんなんだよ、ホント、迷惑にも程があるんだって。
頼むから二度と俺に関わらないで。



「なんで、」

「アンタが連絡くれないから。」

「俺、普段月曜はここに来ないよ。」

「知ってる。」

「一か八かで来たの?」

「積もり積もった愚痴を吐くなら、マスターだろうなって思っただけ。」

「どんだけだよ、」

「ずっと見てたんだ、それくらいわかる。」



黙ってマスターがテキーラとジーマのビンを出すのを、俺はただ見ている。
未成年だって告発したのに、それでもアルコール出すのか。

黒いYシャツの胸ポケットからタバコを取って火をつける仕種が大人びていて。
俺はその一本を許してしまった。
吸うな、と言い遅れたのはなんでだ。
いやもうそんなのわかってる、単に自分に頷きたくないだけ。

答えなんて出てる、本当は。
それが正解とは言い難いから戸惑ってるんだ。
大人と子供には責任ってものにも多くの差がある、だから。
酒を飲んでタバコを吸うキミは謝ればいい。
それを見逃した俺は警察行ってキミの分まで頭下げなきゃならない。
年の差の恋愛も、同じようなモノだろ。

だからイヤなんだ。
代償の大きいことはしたくない。
後先考えずにあれこれ出来る年齢じゃないんだ。
五年後のこと考えて、十年後のこと考えて、一緒にいれるとは到底思えない。

俺は目の前でキラリと光るビンを手にできないまま。
アルコールを流し込みながらする他愛もない話にしては突飛過ぎる。



「バカじゃないの、」

「なにが?」

「俺もキミも男なんだよ?」

「それ、自分に言ってんだろ?」



微かな希望を打ち砕かれて、俺の両手にはもう何もない。
だからなんだって顔をされたらどうしようもない。

逃走経路も、選択肢も、バラ撒かれてるのに。



「マスター、佐助でツケといて。」



俺は卑怯者だ。
自分で選ぶのが怖くて、押し付けたがられている。
それで仕方なく納得しようとしている。
全責任から逃れようとしている。

握られて引かれる右手を振り払おうとしないということは、そういうことだ。
結果的に一番傷付かないで済むように、被害を最小限にしようとしてる。



「…酔った。」

「どこいくの、」

「アンタんち。」



またあのニヤリと気持ちの良くない笑い方。

結局ジーマには口を付けずに店から引きずり出されて。
素面のまま、窮地に立たされてしまった。







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