another ss

□ジンに絞るライムのような関係 シュロ
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ぼーっと黒いエプロンを付けた政宗さんの後ろ姿を眺めていると、チャイムが来客を告げた。
玄関までパタパタ走ると、上下萌葱色のジャージを着た元春がいた。



「おはよ、もう朝メシできる。」

「はよ。やっぱ日曜の朝は政宗サンのメシに限るな。」



スニーカーを適当に脱いで上がり込む元春に遠慮はない。コイツに遠慮っていう言葉がまずない。
幼稚園からずっと一緒で、休みの日でも早朝から深夜まで遊び倒したりもする。
サッカーやったりサッカーやったり、あとゲームやったり、メシ食ったり、まぁ平日の学校ある時と大差ないけれども。
元親はよく大笑いしながら元春と元就さんは似てると話す。そりゃ似てるだろ、親子だし。
でもそーゆーことじゃないらしい、俺にはぶっちゃけわからない。



「政宗サンおはよ。なに、今日はホットサンド?」

「Good morning. 吉川、おまえコーヒーと牛乳どっち?」

「ブラックコーヒー。」

「信親は牛乳だろ? 持ってくから座って待ってろ。」



(至れり尽くせりとはこのことだ、うん。)

元春とダイニングのイスに掛けて目の前でキラめく朝食に思わず瞳を輝かせる。
リモコンでテレビをつけてチャンネルを8chにすると、毎日見てるニュースはお休みで、休日特有の午前の情報番組が流れていた。
すぐにマグカップ二つと白に満たされたグラスを持った政宗さんがやってくる。



「しっかし吉川、おまえホント似てないな。オヤジと。」

「元親サンはそっくりだって笑うけどね。」

「顔の話じゃねーよ、中身の話だ。」

「えー、似てる。だって頭いいし運動できるし。」

「毛利はコーヒーと牛乳どっちにするかって聞かれたら緑茶出せっていう男だ。」



政宗さんがマグカップとグラスを元春と俺に手渡しながらそんな話をする。
毛利の方が清々し過ぎてまだあのひねくれっぷりを黙って許せる、とか何とか言ってるけど、やっぱり俺にはわからない。
365日一緒にいる親子より、20年間友達をやってる人たちの方が遥かに考えてることとかをわかり合えてるってことなんだろうか。
正直言えば、俺は元親の思考回路なんて実はたいして知らないかもしれない。
タバコとお酒とガンプラと車とバイクが大好きってことは知ってるけど、好きな食べ物を聞かれたらカレーくらいしか思い浮かばないし。

政宗さんはシャツの胸ポケットからタバコを取り出して火をつける。
一口空気を吸い込んでから盛大に煙吐き出す仕種が、なんだか元親に似ている気がしなくもない。外見は全然違うんだけど。

青光りする硬そうな黒髪に、通った鼻筋。鋭い目付き。愛想笑いしない口許。無駄な贅肉はついてないほっそりとした身体の線。職業不明。
なんでこんなに美人で(そして怪しい人)が元親の友達なんだろう、と不思議に思う。
H大卒で、英語ペラペラだし、どっちかっていうと元就さんの友達っぽいのに。
あんまり疑問に思ったから元就さんに聞いたことがあった、オヤジと政宗さんって何なの? と。単刀直入に。変化球一切がっさい無しのストレートで。
元就さんは『我も詳しくは知らない、が、一定の距離を保ちつつ、高校の時からああだ。』って眉を顰めながらも教えてくれた。
一定の距離ってなんだ、こんだけ家族ぐるみみたいな付き合いしてて、そんな空間ある?

(政宗さんに直接聞いたら、また何か、違った答えなのか…?)

めちゃくちゃ美味しいホットサンド(なんで政宗さんて料理できるんだろう、もしかして料理やってる人とか?)に齧りつきながら、ぼやっとそんなことが脳裏を過ぎる。
じーっと、テレビに向けられている目を見つめてみるものの、当然リアクションは無く。
正面に座ってコーヒーを啜る元春に素気ない顔をされてしまった。


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