school ss

□その白い肌を汚す
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「つーか、一緒に書くってコレかよ…。」

「半切と全紙は床で書くのが一般的なんでぇ、…どうしてもこーなるよね。」



仕方がないのだ。
そもそもきちんとした経験がないのに根負けして承諾してしまった俺が悪い。
座って書ける半紙とは大きさが違い過ぎる、ここは一度手解きを受けるのが利口なのだ。

でも、



「…この体勢は、な、」

「文句言ってないでちゃんと筆と紙見て!滲むでしょーが!」



二人して上履きをてきとうに放って。
紙の上に膝と手を付く俺の背中に、佐助が覆い被さらなきゃならないのは予想外だった。
筆を握っている右手を上から握られる感触も、むずがゆい。



「あんまり力入れないで、この一画目は点だから、筆の腹を使うの。」

「…ん、」



集中、できない。
佐助が一筆一筆丁寧に説明するたび、首元に息がかかる。

(あーそういや、筆の字って、心の邪念が出るとか聞いたな…。)

じゃあもうダメだ、無理だ、満足いく作品なんて書けやしない。
書くたびにこの感覚を思い出して、きっと筆先が震える。



「ちょっと伊達ちゃーん、ちゃんと聞いてる?」

「………聞いて、ない、」



カタン、

やけに耳に残る何かが落ちた軽い音。
ぐっと掴まれる、右の手首。
目の前には佐助の真剣な顔。

(―…Mistake, 怒らせたな。)

床を見つめていたはずなのに、今視界の隅に覗けるのは天井で、反転させられたのだと気付くのに二秒かかった。
さっきの落下音は、たぶん、遠くに転がっていった筆。



「悪かった、真面目にやる。」

「別に怒ってないよ、」

「…え、」

「俺が今回"せんせー"やるって言ったの、政宗がクラス代表になったって聞いたからだし。」



二年生に教えさせて下さいって現代文の上杉センセーに直訴しに行ったんだー、なんて。
現代文を好かない佐助からしたら、邪な理由でも頑張った方なんだろう。

俺がいるから。

簡単に絆されているのが手に取るようにわかる。
俺は弱い、求められると、どうしても。

掴まれたままの手を振り払わないのも、降りてくる唇から逃れようとしないのも、答えは単純だ。



「…っんん、」

「イイ声、」



そっと左の掌で佐助の頬を撫ぜたら、親指の付け根についていた墨が擦れた。





END.


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