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□青年マイナス1:七つ下の場合
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自慢に聞こえるかもしれないが、俺は恋人に苦労したことはない。
中学から高校三年に進学するまで、恋人がいなかった期間もない。
同級生のミキ、後輩のシオリ、先輩のアケミさん、ゲーセンの店長ヤマトさん、担任だったアキラさん、デカい会社の専務ショウさん、レストランのオーナーヒロユキさん。
五年で七人、一般的にいう遊び人に入るんだろう。
後半が男の名前ってのは、ひとまず横に置いておくとして。
付き合うなら、よく笑う人。
面倒見が良くて、メールをちょこちょこくれて。
料理が趣味だと尚良い、俺も料理好きだからちょうどいい。
未成年の喫煙と飲酒を許してくれる寛大なタイプで。
髪は黒で、長さはショートでもロングでもいい。
おんなじようなテンションで、男でも女でもいい。
そこは別段重要ってわけじゃない。
ガランガラン。
普通ならここで"いらっしゃいませ。"とかテノールの綺麗な声が響いてきそうなのに。
入店しても静かな空間に、俺は眉を顰めてカウンターを見やる。
金髪の美女が一人。
こちらを気にするわけでもなく、黙々とグラスを透明に仕上げている。
そのまま物音がする方に視線を向けると、並ぶダーツボードと男が一人。
細身で、グレーのスーツがよく似合っていた。
背は、俺より少し高い。
後ろ姿で顔は見えない。
けど、掻き上げられているオレンジ色の髪を綺麗だと思った。
(…おれんじ、おれんじ、…おれんじ!?)
暗い店内に一際映えるオレンジ色。
スーツでオレンジ、違和感、今時の会社ってのは緩いらしい。
「バラライカ、」
「…未成年に酒は出せない。」
「はたち、だ。」
カウンターの一番端の席に座って、オーダーをした。
自分で自分の顔立ちはわかっている、はたちだと言い切れば酒を出してもらえる。
少し眉に皺を寄せて怖い顔をしてみたのに、物怖じしない金髪美女は新鮮だった。
目線を少し離れた奥へやると、オレンジの男は何も言わずにダーツを投げ続けていた。
真ん中。
真ん中。
ど真ん中。
時折小さな丸いテーブルに肘をついて、瓶のジーマに口を付けたり、タバコを吸ったり。
ちらっと見えた横顔。
ヒマワリ。
(…なんだ、あれ。)
カクテルグラスに触れた指先が、そのまま止まる。
確かに、ヒマワリが咲いていた。
「マスター、」
「なんだ。」
「あのダーツ投げてるお兄さん、…知ってるか?」
「佐助だ。」
「日本人、なのか…?」
「ああ。」
「髪、染めてる色じゃないし。それに、目、なんだあれ。」
「虹彩のメラニン色素が少ないんだそうだ、ヒマワリみたいだろう?」
「…へぇ、」
二杯目のバラライカを頼んで、もう一度男の方を見る。
オレンジ色の髪を揺らして放った矢は、またど真ん中を突いた。
一瞬だけ、それでも輝いていた目。
緑青色の瞳に開く蜜柑色の花。
胸が、ざわざわする。
差し出されたグラスにたゆたう液体に、金髪美女の顔が映ってはっとした。
笑っている。
悟られた気がした。
「…気になるのか。」
「いや、別に、」
「私も最初は無意識に見つめたりしたものだ。」
「え…、」
「あの目は、あらゆる人を惹き付ける。」
『魔法の目なんだ。』
また、矢がボードに刺さる鋭い音が響いた。