another ss

□青年マイナス1
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生まれてから今まで、俺には自分で決めているルールがある。
そのいち、犯罪はダメ。
まぁ、これは人として当然のこと。
そのに、他人とは付かず離れず。
よく冷めてるだとか言われるけれど、裏切られて泣くよりはずっといいと俺は思う。
友達や恋人にそうされて絶望してるバカをたくさん見てきた。
俺はそんな奴らと一緒にはなりたくない。

どんな人生送ってきたんだ、とか、聞くのは野暮だよ。
そんなのアンタには関係ないだろ?
俺はこういう性格でこうして今を生きている。
それだけ認識してもらえれば十分なんです。

26年間、これで困ったことはない。



通い慣れた、人の出入りが少ないダーツバー。
誰も話しかけてこない自分だけの空間を満喫出来る場所。
そこが気に入って、金曜日の夜はここで過ごすのが習慣になった。

小さなテーブルの上には、相棒のビンのジーマとタバコだけ。



(わーい、BULL取った。)



別に誉めてくれるような存在を欲しいと思ったことはない。
これも正直言えば遊びなわけで。
たかだかド真ん中に羽根が刺さっただけであって、人より優れているわけじゃない。
誰にでも出来ることなのだ、偶然でいくらでもまかなえる。

俺は神様でも愚か者でもない、ごく普通の会社員。
それ以外の何者でもない。

もうすぐ愛しい酒も空になる、そしたらこの遊びも終わり。
真っ暗な家に帰って昼まで寝るだけ、独り身の定番な過ごし方だ。
誰にも干渉されないというのは楽でいい。
その時だけは、世界の中心は自分でいいんだから。



「お兄さん、ひとり?」

「だったらなに?」

「つれねぇな。」

「邪魔しないでくれる?」



一緒に投げない?とか言うどうしようもない輩はごろごろ転がっている。
俺だけの時間に、そんなの構う為の時間はない。
割いて作ってどうする、どうせその場限りの何とやらだろ。
興味ない、要らない、むしろ迷惑。
どっか行ってよ、仲良しこよしは別の人間とやってくれ。



「ダーツ、教えてくれよ。」

「マスターに教えてもらいな、俺どうせ趣味程度だから。」

「…でもそれ、内輪の20に刺さるんだろ?」



俺が投げた矢は、この変な男の言う通り、内輪の20へ。
構えの角度を見て解かるあたり、教える側の人間なんだろう。
物好きなヤツもいるもんだ。



「できるクセに。」

「趣味程度だ。」

「よく言うよ。」

「誘ってんだよ。」



変な男から妙な男へと認識が変わる。
ボードだけを見ていた視線を男の方へ初めて向けると、いたのは随分と美人だった。

暗がりの店内に負けない青光りする黒髪。
右目には刀の鍔の形をした眼帯と、すっとした鼻筋。
白いYシャツに藍色のネクタイ、下は黒いスラックス。
羽根を弄ぶ指先は、男の手だと思えないくらい細い。
ただ、ニヤリと歪んでいる唇の印象だけが悪かった。

パっと見、二十歳かそこら。
周りに友達らしき人もいない。



「…遊び相手欲しいなら、次は友達と来なね。」

「アンタでいい。」

「残念、俺はそーゆーのいらないから。」

「俺を鼻であしらうつもりか?」

「…何様?」

「俺様。」



面倒臭いのに捕まった、ヤバい、俺だけの時間の危機だ。
ビン底でたゆたうアルコールを適当に流し込んで、足元の鞄を引っ掴む。
これは黙ってさっさと退散するのが得策だろう。



「俺さー、」

「…?」

「ちっとばかし飲み過ぎててよ。」

「だから、なに、」

「酔ってんだ。」

「…で、?」

「……………吐きそ、」

「ちょっと!?」



生まれてから今まで、俺には自分でも困っている性質がある。
放っておけばいいのにどうにも放っておけない、世話焼き。
いつもいつもいつもいつも、それで損をする。
わかってる、自覚もある、でも、それでも、直ってくれない。
どうしたもんか。







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