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□オーダーメイド
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気が付いたら、白い部屋にいた。
窓はない。
正方形のテーブルと、イスが二つ。
俺は片方のイスに座っていて、何かを待っている。
何を?
誰を?
「はじめまして。」
左側を向くと、子供がいた。
小学校低学年くらいの、可愛い顔をした子供だ。
「これからいくつか選んでもらうからね。好きなほうを選んでね。」
ニコリと笑った子供に、一つ頷いて返事をした。
右も左もわからないのに、何故かそれでいいと思った。
ここは何処だろう。
この子供は誰だろう。
自分は誰だろう。
「どっちの花束が好き?」
子供は二つの花束を差し出して尋ねてきた。
子供の右手には赤い花だけの花束、左手には赤と黄色の花がバランス良くまとめられている花束。
自分は迷わずに左手の花束を指差した。
子供はまたニコリと笑って、左手の花束を手渡してきた。
受け取ると、またニコリと笑った。
「おめでとう。」
何に対してのおめでとうなのだろう。
わからなかった、でも酷く嬉しかった。
すると子供はまた尋ねてきた。
「きみには、くろい髪、あおい目をふたつ、鼻をひとつ、耳をふたつ、口をひとつ、腕をにほん、足をにほん、プレゼントするからね。」
子供はニコリと笑って、駄菓子を小さな両手いっぱいに乗せて差し出した。
「いらないお菓子は残していいよ。」
急に甘いものが欲しくなって、右手が駄菓子の海に伸びる。
目についた青い包装紙の飴玉を一つだけ残して、あとは全部食べてしまった。
少し申し訳なって子供の顔を見ると、とても穏やかな顔で笑っていた。
「飴玉をひとつもらったから、お礼にこれをあげるね。」
子供はポケットをごそごそとやると、黒い何かを自分のポケットに押し込んできた。
「目が覚めてから見てね。」
悪戯を楽しんでいるような子供は、またまたニコリと笑った。
すると今度は透明なビー玉を二つ差し出してきた。
「一つほしい? 二つほしい? それとももっとほしい?」
不思議なことに、自分は左手で子供の右手に乗せられたビー玉を摘んでいた。
子供は花が咲いたように明るく笑って、左手に残ったビー玉をポケットにしまった。
目の前にいる子供がとても愛しくなって、触れたままの右手を握ると、子供は擽ったそうに笑う。
「じゃあ、これが最後ね。」
子供は少し間をおいて、しっかりと目を見て尋ねてきた。
「目が覚めた時、傍にいて欲しい人の名前をおしえて。」
途端、涙がぼろぼろと溢れてきた。
胸がじわりと痛んで、息が苦しくなった。
心に、誰かが映る。
恋しい人なのに、はっきりとわからない。
あなたは、誰?
子供の顔を見ると、優しい表情をしていた。
何故か前にも見たことがある気がした。
君は、誰?
「いってらっしゃい。」
恋しい人と子供の名前を思い出す一秒手前で、意識が真っ黒になった。
瞼が重くなってきて、自分は眠ってしまっていた。
「政宗様、」
はっと目を覚ますと、俺は小十郎の膝に頭を乗せて眠っていたようだった。
顔の右側に感触がなくて、眼帯をしていないのだとわかった。
「うなされていたようですが、怖い夢でも見ましたか?」
怖くは、なかった。
懐かしくて、愛しくて、暖かかった。
恋しい人もあの子供も、結局誰なのかわからないまま夢は終わってしまったけれど。
たぶん、
きっと、
俺が選んだものは間違っていない。
「小十郎、惨いくらい美しい夢を見たんだ。」
愛用の黒革の眼帯は、デニムのポケットに押し込まれていた。