school ss

□その白い肌を汚す
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俺もつい最近知った新事実だった。

佐助の意外な特技を、たぶん他のヤツらは知らない。





「…なんでアンタがココにいるんだ。」

「なんでって、"せんせー"だから。」



学校では毎年、春に書道展が催される。
各クラスの中から代表を二名選出して、全紙という漉いて裁断していない大きな紙に墨で字を書くという、まぁなんとも大人だけが喜びそうな行事だ。

俺は別に筆を習っていたわけじゃない。
基礎的なことを小十郎に習ったきりで、あとは独学というかクセだ。
自分で綺麗な字だと思ったことはないのだけれど、他人から見れば十分な字体らしい。

担任に名前を呼ばれた時は正直面倒くさいと思った。
部活に遅れて出ることになるし、何より黙ってひたすら腕だけを動かす単純作業は辛い。
ただあの馬鹿が、

『まぁさむねどのぉぉお!クラス代表とは、すごいでござる!』

なんてキラキラした瞳で手をガッシリ握られては、首を横には振れず。
まんまと引き受ける羽目になってしまった。



「な、んだよ。…せんせーって。」

「おれさま、準師範の資格持ってたりするのね。」

「…はぁ!?」

「準師範だと上手くて当然じゃん、だから代表じゃなくてせんせーなの。」



橙の髪をいじりながらあっけらかんと言って述べる姿からして、俺が驚いている理由がいまいち伝わっていない。
佐助が"せんせー"ってのはこの際一度横に置いておく。
今はそこじゃない、どうして"準師範"なんて資格を持ってるんだってことだ。

正統派な達筆の小十郎曰く、師範の資格っていうのはそう簡単に取れるもんじゃないらしい。
それをたかだか十八の佐助が得ているなんて、素直に頷き難い。

端っから疑いの視線を投げ掛けてやると、少し眉を顰めてその右手が俺の頬に触れる。
それを心地いいと認めたくなくて、目頭に力がこもった。



「とりあえず、俺も伊達ちゃんもこのあと部活あるしさ。ぱぱっと練習しちゃおう。」

「―…Ah、」



てきぱきと備品の書道用具を床に広げて準備をしていく佐助は随分と手馴れていた。
太さや毛の種類が違う筆をじっと見つめて、あれこれぶつぶつ言いながらどれが一番使い易いか楽しそうに選んでいる。

そういえば、つるみだしてから一年とちょっと。
俺たちはお互いに学校生活とは離れた側面を知らなさ過ぎる。
そこに踏み込んだら駄目になるのを知っているとしても、あまりにも、遠い。



「伊達ちゃんって、全紙に書いたことある?」

「…ない、」

「ま、普通そーだよね。筆も半紙に書くやつとは全然違うからさ、一緒に書こうか?」



硯に墨を注ぎながら笑う佐助の表情は綺麗だった。
ああ、書するのが好きなんだな、と伝わる、やわらかい笑顔で。







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