school ss

□タバコに火がつかない
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それは日曜日の陽が暮れ始めた頃。
天気予報の通り夕立が降り注いで、俺はビニール傘を差して帰宅中。
イヤホンからは爆音でミッシェルガンエレファント。
前にも後ろにも右にも左にも誰も歩いてない、普通の住宅街のよくある道。

自宅から五分の所にあるこれまた普通の公園に災難は在りました。
俺は残念ながら悲しくなるくらいお人好しなもので。
それはもう見た目で幸か不幸かわかるのですが、近付いていってしまうわけです。
この性格が神様から貰った唯一自慢できることです。



「おまえ、なにやってんだよ。」

「元親待ってた。」

「………ついに壊れたか?」

「至って正常だ。」



ザーザーと雨粒が休む事無く降り頻る中、このバカは傘も持たずに打たれているわけで。
だいたい何があったか予想くらいはつきますが。
(もう四年以上の付き合いですから。)
だからってブランコに座ってられちゃ、もう変質者とかそーゆーのですよ。

湿気ったタバコを一本銜えてライターをカチカチ。
おまえ、高校生だろ。
(まぁ俺もタバコとかお酒とか大好きですけどね。)
こういう公衆の面前では止めときなさい、悪いことは人目のつかないところでやんなさい。
親にイラっときた時は、寝静まった時に叩けって言うじゃん。



「とにかくおまえちょっと傘入れって。」

「もとちかタバコ、」

「やるから、やるから傘入れ。」



とりあえず風邪をひかれると俺は非常に困るんです。
(この状況で風邪ひかれてみ、家まで俺が送るじゃん、片倉サンいるじゃん、俺殺される。)
俺は悪くなくても俺が悪いってことになるから、俺まだ死にたくないから。
だから頼む、言うこと聞いてくれ。

ホント、じーって見んのやめて。
捨てられたネコじゃあるまいし、立って、こっちきて、雨と仲良くしなくていいから。



「あー、…とろい。」

「…っ!」

「ちょ、つめた、」



なに、なにコレ、ひやっとレベルじゃないし、おい。
(冷たい。ズブ濡れてましたとかじゃない。マジかよ。)
おまえ何時間ここにいたんだよ、バカだろ、俺来なかったらどうしてたわけ?

掴んだ手首に温度はなくて、水を含むシャツだけが主張してて。
髪はヘタってるし、唇も青いし、睫も震えてるし、そんな不安そうな顔すんな。
このご時世、携帯って便利がもんがあるんだから使えよ。
番号もアドレスも意味ねーじゃん、何の為に交換してんだよ。



「もとちか、タバコ、」

「…政宗?」

「もとちか、タバコ、タバコくれよ、」



ケツポケのラッキーの箱を取り出して渡すと、なんか薬中みたいにソレに必死になった。
なにがおまえをそこまで追い詰めてるのかとか俺にはそんなんわからないけど。
縋られているんだ、こうして、
どうして俺なのかとは聞かない。
聞いたら、反則な気がする。

思いっきり一つ煙を吸うと、心の底にある黒いモノも一緒に吐き出すように息をつく。
そのまま勝手に俺の胸に凭れ掛かってくるもんだから、当然俺の服も湿ってしまうわけです。
怒りゃしない、何も言わなくていい、どうせ言葉では表現し難いことなんだ。
肩に顎を乗せてしばらくぼーっとしてりゃいい。

泣きたきゃ、泣いたっていい。
(どうせ傍にいてやることしかできねーんだから。)



「もとちか、ラッキーまずい、」

「ガキのくせに美味いも不味いもあるかよ。」

「セッタにしろよ。」

「なんでおまえと同じにしなきゃなんねーんだ。」



こんな一言で笑ってくれんならいくらでも言ってやるから。
こういうのは、もうやめろよ。



流石にそのまま送るのはヤバイと思った俺は政宗を連れて元就んちに電撃訪問をしました。
(俺んちでもいいんだけど、服がない、サイズ合わないっていう。)
もちろんめちゃくちゃ嫌な顔をされましたが、元就も鬼ではないので入れてくれました。
びっしょびしょの政宗パワーです、思わず保護したくなるオーラです。
俺は元就と政宗の服のサイズが一緒だって知ってる確信犯ですが、ま、そこは許せ。



END.



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