wars ss

□そこで待ってて
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桜も散り、青々とした若葉が枝を隠す頃。
日は昇り、そして沈み、月もそれと同じように。
時間よ止まれ。
生まれて初めて誰かの為にそう祈った俺は、とても愚か。





「もう、行くのか。」

「そんな悲しい顔しないで。」



俺もあなたも知っている。
結末なんか、わかりきっている。
絡めた指を解きたくない。
離れてしまったら、それが最期。

大丈夫。
あなたの選択は間違っていないのだから。



「さすけ、」

「まさむね、」



あと何度名前を呼べるのでしょう。
あと何度唇を合わせられるでしょう。
もう身体を重ねることは出来ないけれど。
あと幾度愛しいと思えば涙を流さずに済みますか。

ねぇ、
今度はどうしようか。
ひとつでもいいし、ふたりでもいい。
別々でも構わない。
あなたと一緒にいられるならば、俺はそれだけで幸せ。



「必ず、帰ってこい。」

「…政宗。」

「必ず、だ。」

「………またね、で、許してよ。」



必ずは、絶対に無理だから。
またいつかで、勘弁してよ。

俺だって、必ずって言いたいんだから。



「ごめん。」



あなたにそんな顔をさせてしまう俺は最低な生き物です。
謝ったって謝ったって、足りることなんてないけれど。

せめて、
今だけは、
こんな俺でも、



「…愛してる。」

「me too.」

「日本語で言って。」

「…あいしてる。」



あの地で戦が終わる頃。
ここで泣いて泣いて泣いて、絶望に明け暮れるあたなを、
俺は知りえない。
俺は隣にいられない。

でもあなたは愛されて。
俺からの愛が薄れるくらい愛されて。
そして幸せになって下さい。
笑っていて下さい。

これが最期の、俺からのお願い。



「…泣くなよ。」

「政宗こそ。」

「泣いてねぇよ。」

「泣いてるよ。」



小指から別れていく掌の代わりに一つだけキスをして。
俺はあなたを抱きしめました。



「…またね。」



あなたの最期の記憶が、泣き顔なんていやなの。
だから胸いっぱいにこの香りを吸い込んで。
心の蔵の音を確かめて。

さようなら。





(そこで待ってて。)
(必ず迎えに行くからね。)



END.



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