wars ss

□美化
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例えばね、世界が君を裏切ったとして。それでも俺は君の隣にいて、その手を握ってると思うんだ。

真っ暗闇から、輝く世界をいつも見ていた。
燦々とした太陽の下で、みんなが笑顔で生きてる姿を見ていた。
羨ましくて、妬ましかった。どうして俺には無いのに、みんなには有るのかわからなくて、漠然と悲しかった。
でも、欲しいと駄々をこねても手に入らないって生まれながらに知ってたから、我儘は言わなかった。
ひたすら、ただ良い子でいた。
課題をこなして、命令を聞いて、逆らわず、泣かず喚かず、優秀であることに心血を注いだ。

そしたら旦那に拾われた。
旦那の傍でも、変わらず徹底して完璧を貫いた。
断末魔を毎日聞いた。
血まみれで帰ると、旦那は嬉しそうに笑うから。

でもね、初めて君を見た時、普通じゃないなって気にかかって。人形みたいに笑うんだなって思って。かわいそうな人だなって心配した。
きっと涙の流し方も知らなくて、溜めて溜めて、それが血の雨を降らすんだろうなって。

日の本なんて、ゴミ箱だと思ってた。
人間はゴミ箱の中のゴミだと信じてた。
俺は忍だから、人に非ずな生き物で、ゴミにもなれない屑だけど。

君は違ったんだ。
ゴミ箱の中のビー玉だったんだ。

落としたら割れそうで、熱したら溶けそうで、光に透かせば絶望を照らして、色を混ぜても交わらなくて。
何より美しかった。
壊してみたいなって思った、逆に隠してしまいたいなとも思った。

初めて欲しいものができた。

コロコロ転がって、君は逃げ回った。俺は必死になって追い駆けた。
旦那は君を粉々にしようとするし、片倉サンは油撒くし、そりゃ散々なめにもあいましたよ。
でもどうしても、どうしてもね、あぶくを包んだビー玉みたいな君が欲しくて、美しい君が欲しくて、俺はズルをした。
瞬間移動で先回りして、君を捕まえちゃった。

君は泣いた。わんわん泣いた。
綺麗なんかじゃないって嘆いて叫んで、自分の全てを否定した。
ゴミ以下の俺の前で、そう言った。

生まれることも、生きる上で歩む道も、これって全部運命っていう網目状の盤の物語だと思うんだよね。
君が殿様で、俺が忍で、君は俺を斬らなきゃいけないしさ、俺だって君を殺さなきゃいけなくてさ。
でも、俺は君を捕まえたんだよ。
そいで君は俺に捕まったじゃん。
確かにズルしたけど、反則って使い所が大事だと思うんだよね。俺はあの場面がジャストだと感じたんだよ。

運命通りなら、きっと殺し逢いだったんだろうけど。今お互いの掌には何もないじゃんか。
奇跡が起きたから、俺は君を愛してんだよ。

そしたら、君、すごい笑ってさ。向日葵みたいに笑ってさ。俺めちゃくちゃ嬉しくなって、抱きしめたんだよ。
壊れ物を扱うように、優しく抱きしめて、口付けしたんだ。

風で舞い飛ばされて、踏みつけられて、黒く汚れて腐っていくような俺を、君は必要だって言ったから。
こんな世界でも好きになってみようって思えた。



「長い独り言だな。」

「まぁね。」



でも俺、これでも君に会う前まではいつ死んでもいいやって考えだったんだよ?
君と違って愛なんて見たことも聞いたこともなかったしさ、ま、君も与えられてたわけじゃないけど。
今じゃ意地でも死ねないよね、君を残して逝けないよね、だってひとりぼっちにしたら君絶対泣くもん。
俺、知ってるよ?

俺もひとりぼっちにされたら泣くけど。

どうしたらずっと一緒にいれるかな、一つでいられるかな、朝も昼も夜も、死ぬ瞬間も。
その記憶丸ごと俺も知りたいな、そしたら言葉にしなくたってわかるのに。
指先が触れたらさ、神経と血管が繋がって、俺の想いが流れ込んで、君の傷だらけの感情を治してあげられるとかさ、素敵でしょ。

馬鹿でいいんだ。
君が笑ってくれるなら、馬鹿で構わない。

ズルしてよかった。本当によかった。死なないでよかった。だって君に会えた。
ありがとう。
運命って変えられないって思ってたけど、捻り曲げて奇跡を起こせばいいんだよね。
信じてみたくなるよね、愛してみたくなるよね、何もかもをさ。



「ひとりごと、おしまい。」



振り返ったら、着流しきた君が腕を伸ばして待ってるの。
月明かりが白い肌の上を滑って、艶やかで、俺は蜜に誘われる蝶になって、そっと傍らまで寄って行くから。
カマキリになって、ちゃんと羽根をもいでね。
俺は堕ちた羽根の鱗粉で君を犯すから。

やっぱり奇跡じゃ美化し過ぎかなぁ、ね?
もう少し酷いくらいが丁度いいかもしれない。



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