another ss

□青年マイナス1:七つ上の場合
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『あとでダメージ喰らうのはこっちだぜ。』

知ってる、わかってる、だから本気になってはいけない。
俺もバカじゃないんだ、それくらい心得てる。
身体的にも精神的のも俺の方がずっとずっと弱い。
それは七年多く生きてる分経験で手に入れた強さでもあるけれど。

どうにでもなれ、とういうのは嘘だ。
でもどうにもならない、だから家まで連れて来てしまった。
自分の聖域に他人が踏み込む瞬間。
ましてやそれが俺を振り回す存在っていうのは、気分が悪いものだと思っていたのに。

そんなでもなくて。
だから無性に、胸がざわざわした。



「水、いる?」

「いや、」

「テキーラなんか飲んでさぁ、明日学校でしょ?」

「アレ、………水だった。」



嵌められた。

マスターなりの気遣いだとしても、俺には大打撃だよ。
余計なお世話って、コレか。



「俺、アンタが好きだよ。」

「それこの間聞いた。」

「アンタは?」

「………考え中。」



若さ故の直球勝負に、俺はよく曲がるカーブで返す。
察して欲しい、という我侭もある。
政宗を好きだと認めたら、俺は同じだけ何かを失わなきゃならない。

大人になると、得る機会は減るのに失くす機会は増える一方。
自分が磨り減っていくのがわかるから、ヘタなことが出来なくなるんだよ。
子供は失ってもその倍得る力がある、大人と子供の最大の違いはココ。
人生ってのは実によく出来てる、ホントに。

そうするのが当然なようにソファに寝転ぶキミ。
ここにいることが間違いなんじゃないかと変な錯覚に陥る俺。
素直さと後ろめたさは、こうして態度にだって出る。

腰掛けているベッドは勿論何も言ってはくれない。
圧倒的不利、この時点で先も見えてしまう。
俺は負けるのだ、有り余る感情を振りかざす子供に。



「俺は確かにじゅうはちだけど、」

「うん、」

「思い込みと本気の違いくらいわかる、」

「…そう、」

「右も左もわからないガキじゃない。」

「う、ん、」

「アンタ大人なんだから、はっきりしろよ。」

「…大人だからはっきり答えられないこともあるの。」



そういうもんなんだよ、大人って。
平気で嘘吐けるし、冗談を武器に出来るし、愛想笑いを盾にする。
汚いっちゃあ汚い、仕方がないと言えば仕方がない。

例えば目の前にいる鴉が黒くても、白だって言わなきゃならない時もある。
林檎が二つあったって、一つしかないって言わなきゃならなかったりもする。
人間っていうのは群れて生きているから、どうしようもない。

だから曖昧にするっていう裏技だって使えるの。
AでもなければBでもない、そういうのも必要なの。
それが俺の感情だっただけであって。



「好き、だけで、いいんじゃねぇの?」

「まさか。」

「じゃあ好き以外に何が要るんだよ。」

「勇気と、覚悟と、絶望と、あと寛容さ。」

「なんだよそれ。」

「平凡な人生にさよならする勇気と、キミを好きだって認める覚悟と、キミにポイされた時の絶望と、振り回されるんだろうからそれを許せるだけの寛容さ、ってこと。」

「………人生捨てるみたいな言い方だな。」

「俺26だよ?人生捨てるのと一緒じゃない?七つも下で、学生で、しかも男。」

「俺だって多感な18だよ。七つも上のリーマンに恋したのってもう末期だろ。」

「…若くてもそんくらいわかるんだ。」

「じゃなかったら、一年間も見てるだけとか、しない。」



左だけのひとつめが、じっと見つめてくるもんだから。
ああ、遊びじゃないんだなっていうのはわかった。
でもそれとこれとじゃ違うんだよ、例え嘘じゃなくても。



「アンタ、たぶん余計なことごちゃごちゃ考えてるんだろ。」

「考えてるね、」

「俺だって考えた、けど、」

「けど?」

「結局好きって答えしか出なかった。」

「…単純。」



でもそれが、最強なんだと思う。
なんであれ、どうであれ、最終的にそうなるんだと思う。

その単純さ、俺も欲しいよ。



「それで、…俺をどーしたいの?」

「俺のものにしたい。」



ソファから飛び起きてきたキミにベッドに押し倒されるまで、約3秒。

さようなら、愛しい日々。
いや、もう金曜の夜にお別れしてたんだっけ。







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