戦場で彼は歌う
□第1夜 ハジマリの出逢い
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少年の居たところは、彼以外にいなかった。
街灯もついており、静かな夜の街と言われれば誰もが納得するだろう。
しかし、どうにも引っ掛かりを覚える。
少年の隣を歩いている神田は、1人思考を巡らせる。
神田の今回の任務はイノセンスの有無を調べること。あれば回収。
イノセンスは確かにあった。適合者もいた。
そこの住民が次々に居なくなるという奇怪な事件の犯人はAKUMAだ。
この綺麗な造りをした適合者と、その寄生型イノセンスを狙ってこの街にやってきたのだろう。
引っ掛かったのはソコだ。
この少年はどうして1人もいなくなったこの街に居続けたんだ?
ここはすでに人の皮を被ったAKUMAの巣のようなものだった。
聞くべきかどうか悩んでいると、少年が神田を見上げた。
推定171cmくらいであるだろう少年が、181cmの神田を見上げるのは自然なことだ。
「聞きたいことがあるんだけど」
澄んだ声が耳に心地よく響く。
神田は目で促した。
「俺はイル、イル・スコット。アンタは?」
少年ことイルは、そう言って首を傾げた。
「神田 ユウだ」
「日本人?」
何故か、コイツの声には苛立たない。なので神田も比較的穏やかに話すことができた。
「そんなようなもんだ」
「ふーん。あのさ、幾つか質問したいんだけど」
「……面倒だから、教団に行ったらコムイに聞いてくれ」
明らかにこちら側について知らなそうな様子なので、神田は説明するのが嫌だった。
「いや、その教団がなんなのか教えてくれてもいいでしょ」
てか、コムイって誰? というイル。
……さすがに基本知識は入れておくべきか。
神田は諦めと面倒臭さでため息を吐いた。
「教団ってのはエクソシストの総本部、黒の教団。コムイは科学班室長」
「さっきも言ってたけどエクソシストって?」
イルが首を傾げた。ハニーブラウンの髪がそれに合わせてふわりと揺れる。
「AKUMA退治専門の聖職者だ」
「さっきから聞いてると、アンタのいう『アクマ』って、あの化け物のことみたいなんだけど」
「そう、あれは死者の魂と機械を融合した生きる悪性兵器」
イルはよくわからなかったのか、不思議そうな顔をして、神田を見ていた。
神田は本当に面倒になり、説明を中断し、教団に急ぐことにした。