氷の姫宮
□悪霊がいっぱい!?
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「どうか、引き受けてくれないだろうか」
母校の校長と私は、大学のカフェで対座していた。
講義を終えたところを捕まり、ここに連れてこられたのだ。
現在、深々と頭を下げられた私は、少し困っていた。
私が通っていた高校の旧校舎の霊を祓ってくれ、という依頼をされても、どうしていいのか分からない。
私は3年間そこに通っていたが、霊など見たことがなかった。
霊視の能力はさして強くはないが、まったく見れないわけじゃない。
そんな私でさえ、在学中の3年間、何も感じなかった。
今さら何か現れたとしたら、私が卒業してから約3年の間でいったい何があったのかという話になる。
しかし、ここ数年そのような話は聞いていない。霊が出るような大きい事故があったら、マスコミが取り上げるであろう。
昨今はそういう学校の話題をあげつらう奴らが増えていることだし。
元々、いわくつきの場所として、高校時代は話の種であった旧校舎。
しかし、それはあくまで噂話。
私は、目の前の校長に聞こえないようにひっそりとため息を吐いた。
「……分かりました。お引き受けしましょう」
◆ ◆ ◆
引き受けてしまった……。
校長のいなくなった向かいの席を見やり、今度は大きくため息を吐いた。
いないものをどうに祓えばいいのか。
いや、いるかもしれないが。
しかしあの校長、私が祓い屋をやっていることをどこで聞き付けたのだろう。
家系上、私は符術師をしている。
表立った活動は一切していないのに、よく知れたものだ。
それに、大学のキャンパスまで来て、頭を下げられるとは思っていなかった。
スーツ姿の年配の男に頭を下げられている女がどんな目で見られるか予想がつくだろうか。
結構な賑わいを見せる学内のカフェで、だ。
好奇心や不審に満ちた目を大量に向けられれば嫌になる。
未だに視線が痛かった。
仕方がない、出よう。
会計は校長が持ってくれたので、私は飲みかけだった紅茶を飲み干すと、カフェを出た。