戦場で彼は歌う
□第1夜 ハジマリの出逢い
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チカチカと瞬く街灯が妙に眩しく感じられる夜。
普段は静謐な空気に包まれているはずのそこには、乱れた息と、不快な音が妙に響いた。
物陰に隠れていた少年は、徐々に近づいてくる音に恐怖は感じていない。
ただ、もう、これまでかな、と少年は思った。
一言でいうと美麗というのがピッタリというほどに、少年の顔立ちは人並みを外れていた。
ふわりとしたウェーブ状の髪は優しいハニーブラウンで、正面から見ると左側が短く、右が腹の辺りまで伸びている。見事なアシンメトリーだ。
右側の長い髪は、銀色の留め具で留めてあり、髪によく映えている。
柳眉は苦しそうに歪められ、顔には疲労の色が濃く出ていた。
濃く色づいた薄い唇からは、絶えず荒い息が漏れ続ける。
服装はどこにでも居そうな黒いシャツに同色のズボン。
しかし、彼は人目を引く。
何よりも、アメジストを嵌め込んだかのような紫色の左目と、暗闇ですらその光を失わないような金色の右目が、やはり一番の存在感を出しているだろう。
汗で頬に貼り付いた左側の横髪を、少年は鬱陶しそうに、ピアスの沢山ついた耳にかけた。
変なボール状の化け物に襲われることは物心ついた時から多々あった。
撃たれたことも何度かある。しかし、大事に至ったことはない。
しかし、今回は絶体絶命、命の危機だ。
何しろ数が多い。
だが、最後まで足掻くのをやめるつもりはない。
「……あきらめて、やるものか」
こんなところで、死ぬわけにはいかない。その理由がある。
化け物が近付いてくるのを感じた。
髪で隠してある右耳の裏にモノに手を触れる。
生まれた時から共にあったお守り。
どうか、お守り下さい。
少年が固く瞳を閉じた。
衝撃音と共に左腕が熱くなった。
撃たれたのだと漠然と感じる。
少年は色の違う双眸を開いた。
ボール状の顔のような部分と目が合う。
暗闇の中で死んでなるものか!
そうしたら、突然化け物が消滅した。
代わりに目の前に現れたのは、艶やかな長い黒髪を一本に縛り上げた黒服の男だった。
手には一本の刀を下げている。
「…………撃たれていたよな?」
怪訝そうに眉をひそめる男に、少年は力なく微笑んでみせた。
「……大丈夫だよ、掠っただけ」
「チッ、普通ならAKUMAの弾丸は受けただけで死ぬんだよ」
俺や寄生型じゃあるまいし、と呟いた男の声は、少年に届いていなかった。
「え?」
「とりあえず、来い」
それだけ言うと、男は踵を返してしまう。
「えぇと、あのー? あなたは誰?」
「エクソシストだ」
それが、神田 ユウとイル・スコットの出会いであった。