貴方の為に咲きましょう。

□第二話
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 意識が浮上する。

 ふと、自分の体に触れているものが、感じたことのないくらい、手触りの良いものであることに気付く。

 思考が弛緩している。

 これほどゆっくりと寝たのは初めてだった。

 少し身動ぎをして、目を開ける。

 当たり前のように手足を動かせる感覚がひどく嬉しかった。

「……起きた?」

 鈴が鳴るような愛らしい声が、響いた。

 視線をやれば、髑髏の眼帯をした美女がいた。

 その藍色の髪と特徴的な髪型に既視感を覚えた。

「骸さん……?」

 声が、出た。

 少し掠れていたが問題はない。

 その女性は、一度瞬きをすると、小さく微笑んだ。

「私はクローム、クローム髑髏」

 あぁ、と私は納得した。

 牢獄に閉じ込められて身動きの取れない骸さんが唯一憑依できる人だと聞いた。

 私はゆっくりと上半身を起こした。

 クロームの姉さんが目を見開く。

「起きれるの?」

「うん、傷は塞がってる。着替えさせてくれたのは、クロームの姉さん?」

 私の服はゆったりとした黒のワンピースに変わっていた。

 包帯もほとんど取ってあるし、きっと換えようとしたら治っていて驚いただろう。

「そう。……ボス、呼んでこなきゃ」

 随分と端的に話す人だ。

 ただ、女性とほとんどまともに触れ合ったことのない私にとって、この出会いは嬉しかった。

 部屋を出ていく彼女を私は見送った。

 そして、改めて部屋を見渡してみる。

 中央には私の寝ている大きなベッド。あとはドレッサーとテーブル、一人掛けのソファーが3つ。

 カーテンが閉まっているため、外の様子は見えないけど、隙間から光が射し込んでいるから昼間だろう。

 私は、ベッドから下りた。

 そのまま、ドレッサーに近寄り鏡の前に立つ。

 久々に見る、自分の姿がそこにあった。

 亜麻色の髪はふわふわとしていて、どうにも邪魔だ。

 真っ直ぐと鏡を見つめる瞳はブルー。

 一度、骸さんにタンザナイトみたいだと言われたことがある。

 重傷だったはずの左目や、数針縫った口元は跡形もなく綺麗になっていた。

 自分でも、この異常な回復力には驚かずにはいられない。

 ワンピースは肩のところが紐になっていて、丈は膝くらい。

 肌触りがよくて、動きやすい。

 カーテンを開けてみようと、窓まで歩み寄った時、背後のドアが開けられた。

 
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