ネクター

□日常編
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沢田綱吉、通称ダメツナ。



彼とは直接話したことないけど、彼に関する話は聞いたことがあった。

勉強も運動もダメなダメツナ。

0点のテストを取ってくる。
逆上がりができない。
いつもクラスメイトに馬鹿にされている沢田君。


私の中で彼はそれだけの人だった。



けれど、この日それは変わった。




偶然、並盛の隣町である黒曜のさらに隣町。
並盛から見れば二つ先の町に私は訪れた。


理由は簡単、そこで母が働く会社があるから。
たまに入る夜勤で夜食として食べるお弁当を忘れた母から電話があり、仕方無く私が届けることになった。


その帰り道だった。

人気のなくなってきた道で聞こえた男達の小さなうめき声。

一瞬、学校で風紀の制裁を受けていた男子先輩達を思い出した。


音や声はまさにそうだったけど、ここは並盛じゃない。


いつもなら早足で去るところだったけど、




「弱ぇな、ほんと」



聞こえた声に足が止まった。


どこかで聞いたことのある声。
だけど、すぐに思い出せなかった。


恐怖もあったけど、思い出せない誰かがはっきりしないから気になってしまった。


足音を立てぬように近づき、そっと曲がり角を覗きこんだ。





「………え?」




倒れているのはたぶんこの町の男子中高校生だと思う。


制服に見覚えがないのは私がこの町の中高校生の制服を知らないから。


だけど、立っている人は知っている。

制服じゃないけど、その顔はクラスで見ている。
だけど、クラスで見たときとは違う無表情で、冷たい目をした沢田君。



見間違えなんじゃないかって思った。

だって私の知っている彼はこんなことしないから。





「ったく、弱いくせに粋がるなよ」

「ぐっ……」




倒れた男の腹を軽く踏む沢田君。
苦しそうな声を出した男の人。


どういう経緯かなんてどうでもいい。
頭がパニック状態になった時、沢田君がこっちを見た。


目があったとき、思わず走って逃げてしまった。


悪い夢だ、他人の空似だ。

そう自分に言い聞かせながら走ってバスに乗って帰った。



「これは夢だ、高瀬久那!」



明日、学校に行きたくなくなった。
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