Tennis
□マフラーを
1ページ/1ページ
「はよざいまーす…」
「なんや光、寒そうやな」
もう3月やで?とる言ってくる謙也さんの腹目掛けて拳を突き出す。
あっさりかわされたそれは謙也さんの左手に捕らえられて、いつの間にか絡められていた。
「あ、梅咲きそうや!!!」
そんなこと言ってはしゃぐ謙也さんはもうマフラーも手袋もしてなくて、寒さには強いと言っていたことを思い出した。
「もう春やんなぁ…桜咲くの楽しみやな♪」
謙也さんは俺に笑いかけてくるけど、俺はマフラーに顔を埋めるように俯いた。
アホちゃいますか?
春が来るいうことは、謙也さんがここを卒業して、俺の側にいなくなるってことなんですよ?
それ、わかっとるんですか?
「俺、春なんか嫌いっスわ」
梅を見つめる謙也さんを置いて一人歩き出す。
4月になったら、こうして2人で歩くこともなくなるだろうか。
そう思うと無性に泣きたくなって、マフラーに再び顔を埋めた。
マフラーをぐるぐる巻きにして
(こんな情けない顔、見られたない)