Tennis
□Cutie
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部活終了後の部室。
部誌を書く手を止めて、目の前に座る後輩を見た。
「…なぁ、光」
「…」
「光!!」
「…」
あぁ…
なんやねんこいつ。
扱いづらくてしゃーないわ…
さっきから幾度となく呼び掛けているというのに、光は俺の方をじっと見たまま動かない。
視線が気になりすぎてとうとう持っていたペンを机に置いた。
「…なぁ、さっきから見られとると気になるんやけど…」
「…あかんのですか」
あ、やっと返事が返ってきた。
「あかんわけやないけど…何そんな見とんねん」
「いや、謙也さんかっこええなーって」
「……は///!!?」
ななななんやねん!!!
財前ってこんなこと言うような奴やったか!!??
「〜っ///」
「謙也さん、顔赤いっスわ」
「Σなっ…誰のせいや思とんねん!!!!」
「俺スか?」
「他に誰がおるっちゅーねん!!!」
「俺がかっこええ言うたら赤なるんスか?」
「…は?」
ちょお待ち。
意味わからへん。
「俺に言われたから赤なるんスか?
それとも他の奴に言われても赤なります?」
「え…な…」
「なぁ…謙也さん。」
「〜っ///」
10cmの身長差のせいで財前は必然的に俺を見るとき上目づかいになる。
陶器みたいな透ける肌、漆黒の髪と瞳。
なんや…?
こいつこんなかわえかったか…?
下手したら…
いや、下手なんかせんでもそこら辺の女子よりよっぽど魅力的や。
「…え…謙也さん?」
次の瞬間には光を腕の中に引き寄せていた。
「え…あ…!!
す、すまん///!!!!」
引き寄せた身体を数瞬で引き離し、冷静になろうと顔を覆う。
何しとんねん!!!
何考えとんねん!!!!
相手は後輩、しかも男やぞ!!??
ほんま何なん!!!??
絶対引かれたやんか!!!!
「あ…ほんま堪忍…」
「謙也さん、何であんなことしたん?」
光の声に怒りの色は見えなかった。
ほっとしたのもつかの間。
答えられない質問に再び頭を抱える。
「何でって…///」
「なんでまた赤なっとるんスか?」
「…っ…」
言い訳の仕様が無い。
気づかないフリをしていても気づいてしまった。
本当はずっと前から気づいていたのかも知れないけど。
「俺、」
俺は―…
「光が…好きや」
「知っとりますわー」
「……は!!??」
「気づかんわけないやん」
「な…///!!!」
じゃあ何で言わせるようなこと、そう言ったら呆れた顔をして。
「何言うとんねんヘタレ」
「ヘタレやな…っ///」
口から出た言葉が最後まで紡がれることは無かった。
「…ほな、先外出てますわ。はよしてくださいね」
何事も無かったかのように部室を出て行く後輩に、何も言うことはできなかった。
『好きな人に好き言われたいって気持ち…わからへん?』
いきなりのキスと共に降ってきた言葉に、どんな顔をして部室を出よう、と再び頭を抱えたのだった。
Cutie
(俺が恋に落ちた相手は)
(とんでもなく可愛くて)
(とんでもない策略家やった)