糸が魅せる

□真綿に針
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……ちょっと待って、誰かこの状況を説明して欲しい。





「やっぱりお腹空いてたんだ、いっぱい食べていいからね!」

「ありがとう!」


朝起きたら、知らない男の子にお母さんが朝ご飯をご馳走していた。
な、何を言ってるかわからないと思うけど私にも全くよくわからない。


[現実逃避するな絆音、戻ってこい]


頭の中が真っ白になりそうなりかけたが結梨の言葉で私は現実に引き戻された。


『(だ、大丈夫だよ……)』


ただ予想外のことで思考が少しぶっ飛んだだけだもん。


『お、おはよーお母さん……』

「おはよう、絆音」

「おはよー!」

『あ、えと!おはよう?』


挨拶されたので思わず返した。
いやいやいやいや、流れに流されるな私、返す前に聞くことが山ほどあるよ私!!


『えっと、あの……どちら様で?』


恐る恐る、と言った風に私は二人に聞いた。


「紫雲院 素良だよ!よろしくね絆音」

「お腹空いて家の前をうろうろしてたからさー見てられなくて拾ってきちゃって」

『あ、そっかーお母さんまた拾って来たんだー』


全くーお母さんすぐに犬や猫とか拾って来ちゃうんだからー
アンしかりコルしかり……そりゃお腹を空かせてたら放っておけないよねー




じゃない!!?


「おはよー母さんまたなんか拾っt『お兄ちゃん!お兄ちゃん!大変だよ!!!お母さんが遂に人攫いに!!』

「えぇ!?」



・・・


「だってしょうがないじゃないか、見てられないだろ?お腹すかしてたし」


私たちの言葉にもお母さんは悪びれず朝ご飯にいつものパンケーキを差し出した。
いつものお母さんだった。


「いや、人間拾っちゃダメだろー」


私はパンケーキを口に頬張りながらお兄ちゃんの言葉に何度も頷いた。
うぅ〜どうしてこんな時に日織は寝てるんだ、
できることなら口の上手い日織にお母さんを言いくるめて欲しかったのに。


「でもこの子、あんたの弟子なんだろ?」

『え、お兄ちゃんいつの間に弟子取ったの!?』

「違う!」


お兄ちゃんの様子から見てなんと言うか……付きまとわれてるってオーラがバンバン出た。
昨日素良って子を話す時に言い淀んだのはこれが原因か……アブナイ子なのかな!?


「えー!?」

「えー!?っじゃない!!
全く……テキトーなこと言って家に上がり込んで……
ちゃっかり朝ご飯まで……」

「いいじゃない、師匠のお姉さんのパンケーキ美味しいし」

「え……お、お姉さん!?」


“お姉さん”という単語にお母さんは反応して素良に詰め寄った。
ん?……なんかこっち側の雲行きが怪しくなってきそうな流れだよこれ。


「え、違ったんですか!?
ごめんなさい、“若くて美人”だからてっきり師匠の“お姉さん“だと」

「いやだ〜若くて美人だなんて正直な子ね〜
気に入ったならパンケーキもっと食べていいのよ!」


お兄ちゃんのパンケーキが素良の目の前に差し出された。


「あ、俺の!?」


く、口つけといて良かったーーーーー!!!
パンケーキが取られてたら泣いてたかもしれない。
いや、でも……


『は、半分……食べる?』


食べれないのは悲しいから私は半分をお兄ちゃんに差し出した。
泣きそうだし、手は震えてるけど気にしない、食べたかったけど気にしない。
え、昨日のパンケーキは半分こにしたって?
昨日は昨日!!朝ご飯は朝ご飯だよ!!


「いや、泣きそうな顔で譲られても困る、
自分のなんだから食べていい」

『うん!』


お兄ちゃんがそう言ってくれたので私はパンケーキを大きく口に頬張った。



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