糸が魅せる

□縫い始め
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質量をもったソリッドビジョンの実現により生まれたアクションデュエル。

フィールド・モンスター・そして決闘者が一体となったこのデュエルは、人々を熱狂の渦に巻き込んだ!





「遊矢の奴の奴〜勝手なことをして〜!」

『ゆ、柚子ちゃん、そんなに叩いたら機械壊れちゃうよ……』


ある人物のせいで怒った少女は質量をもったソリッドビジョンそれを実現させる機械をバンと叩いた。
そんな少女ーー柊 柚子を止める、赤と緑、トマト色の髪をした少女は榊 絆音。
柚子が怒る原因となった少年の妹である。


あ、あんなに叩いて壊れないかな?
ソリッドビジョンシステムってデリケートって塾長言ってたような。
何て言ったってこの遊勝塾は“けいえいなん”だからね!!
自分で言っててちょっと悲しくなったけど……


「もう!……あ」

『あ……』


絆音の注意も意味なく、ソリッドビジョンシステムは煙を上げて壊れた。


・・・


「俺の熱血指導が〜〜〜〜!!!」


恐らく、塾の外にいた人たちにも盛大に聞こえてたであろう大声を出しているのは、
この遊勝塾の塾である柊 修造、柚子ちゃんのお父さんだ。
私はキーンとする耳を抑えながら塾長の愚痴を聞いた。
でも本当にこのままじゃ受講者は増えない、
ソリッドビジョンシステムを買い直さなきゃいけないし本当に経営難で潰れるかもしれない。


「あ〜あ、柚子と絆音が壊さなかったらもっと笑わせてやれたのに」


トマト頭の少年、榊 遊矢は頭のゴーグルをつけて言った。


『ご、ごめんなさい……』

「絆音、すぐに謝らない。
遊矢がふざけるからでしょ!ってちゃんと人の目を見て話せ!」

「うわ!?っいって〜……」


遊矢は柚子の殴りを慌てて避けた。
そしてある人物に激突した。


『権ちゃん!』

「まだいたのかよ権現坂ー」


その人物は先ほど遊矢の相手をしていた少年、権現坂 昇だった。


「あの少年は笑ってなどいなかった」

「えぇ?いやいや、結構笑ってたって!」

「笑わせるのと笑われるのでは天と地ほど違う!!
お前の父親、榊 遊勝はデュエルで皆を笑顔にしていた。
あの心からの笑顔を忘れたのか!!」

『権……ちゃん』


私はふと、塾に飾ってあるお父さんのポスターを見た。
観客を沸かせる「エンタメデュエル」お父さんは、それを体現した素晴らしい決闘者だった。


「ま、うちの親父も最後は皆に笑われたけどね」

『……!』

「「遊矢!!」」


お兄ちゃんの言葉に柚子ちゃんと権ちゃんは責めるように名前を言った。
私は……お父さんを茶化すような言葉に何も言えず、スカートをギュッと握りしめた。


「おやおや〜?何やらお困りのご様子」


見計らったかのタイミングで黄色い司会者の服を着た人が入ってきた。
あ、受付忘れた、今誰もいないやカウンター。


「えーっと、どちら様で?」

「アクションデュエルの現役チャンピオンストロング石島のマネージャー兼プロモーターをしております。
ニコ・スマイリーと申します」


聞く人次第ではイラつくようなイントネーションでニコ・スマイリーは自己紹介をした。

私とお兄ちゃんはある言葉に目を見開いた。


「『ストロング石島……っ』」


・・・



[何をしてるんですか?]

『(何もしてない、強いて言うなら空見てる)』


私は心の内からの問いかけにそう答えた。
ニコさんが話を持ちかけに来た時、私は気分が悪くなって外に逃げた。
そしてなんの気もなしに散歩をすることにした。


[まあ、逃げて正解なんじゃねぇの?どうせろくな話じゃねえってああいう輩は]


先ほど問いかけて来た声とは違う声が頭に響いた。


『(……逃げてないもん)』

[……そうか。
と言うかあの黄色服うっとおしくないか自分の自己紹介にニコ!ってなんだよニコ!って]

『(そう、だね)』


声は落ち込んだ私をどうにかして慰めようとしているみたいだった。
彼女に気を使わせてしまっている自分がどうしようもなく情けなくなった。


『(ごめん、結梨)』

[謝るな、というか今までのどこにお前が謝る要素があった]

『(……ごめん)』

[だから謝るなって]

[結梨、そこまでにしてください。
絆音相手にそれは悪循環です]


堂々巡りになりそうな私と結梨の会話を最初に響いた声が止めた。


[日織、でもな……]

[絆音はすぐに謝ります、結梨の行動は逆効果です]

『(うぅ〜ごめん)』


何が悪いかとは言えないけど。
どうしても謝らなければいけない気がしたから謝った。
こういうところを結梨と日織に直せと言われるんだろうけど……


[……この通りです]

[……なんというか、もう修正不能な部分まで来てるんじゃないかこれ]

『(……ご、ごめん)』


私がまた謝ったことで二人のため息が聞こえた気がした。
あうあう……


[寧ろここまで来ると口癖だね]


そんな中、私の中にいる最後の一人声が響いた。


[紬凪、今日は珍しく早起きですね]

[珍しいは余計、ボクだって起きる時は起きる]


紬凪は珍しいという言葉を否定した。


[昼過ぎは早起きか?]

『(うーん……いつもは午後11時だからいつもよりは……)』

昼過ぎに起きて早起きと言われることに結梨は疑問を抱いたのか私に聞いて来た。
ちょっと返答に困ったけど、とりあえずいつもよりはまし!って答えといた。


[前々から思っていたが昼夜逆転してるよな、それ]

『(う、うーん……)』


そんなことを繰り返していると。
家に帰る時間になったら気分の落ち込みはすっかりなくなっていた。
なんだかんだ落ち込んだ私を戻してくれた3人に心の中で謝って、私は家に帰った。

その後、まさか夕飯に爆弾発言を放り込まれるとは思っていなかった。



→あとがき
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