World-X ワールドクロス

□World-X第一幕
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第九章、The die is cast.(賽は投げられた)


来火side



「うーん……どう書くか」

「ただいま!」

「ただいまー……ってねーちゃんどうしたの?」



様々なアクシデントから無事帰宅した千明達に待っていたのは左手で便箋を持ちながら右手で頭を押さえて悩んでる来火だった。
そんな来火に不思議に思った千明が話しかけた。


「おかえり千明、雪兎。
いや、ちょっと手紙を書こうとしたんだが……千明、お前って文系だよな」

「へ?まあどちらかと言えばそうだけど……」



千明と雪兎に返事をし、丁度いいと思ったので文系か千明に聞いた。
どうせ文系でも無理だけど駄目元で。



「それなら丁度よかった。
なー千明、イタリア語で“アサリ家族に告げる”ってどう書くんだ?」

「……色々つっこみたいけど大体ねーちゃんが何をしたいのか分かったよ。
そしてごめん、俺はイタリア語を知らない」

「だろうな、お前は漢文系だし」

「漢文系って……いや、間違ってないか」

「だろ」

「?」


俺の言葉に千明は納得し、千明の得意な科目を知らない雪兎は頭を捻った。


「千明は国語が得意で特に漢文が得意なんだよ。
こいつの親同様にな」

「俺の親……というかねーちゃんの親でもあるんだけど……」


俺の言葉に千明は呆れた声をだして言った。
千明やあの人らの考えは分かるが……と言ってもなぁ。


「……ああ、そうだな。
そして氷来の親でもある」

「?」


まあ、事実だ、俺は千明の言葉に同意した。
そして俺たちのそんな会話に雪兎は頭上に?マークを浮かべて首をかしげた。


「姉さん、千明、馬鹿、姉弟?
全然、似てない」


馬鹿って……あ、氷来か、やっぱり氷来と雪兎は仲悪いなぁ。
第一印象がお互いに悪いからしょうがないと言えばしょうがないが。
俺も氷来も千明も全く似てないし血も繋がってない雪兎の疑問は理解できる。


「姉弟だけど血は繋がってない。
色々あって千明の両親に俺達が世話になってるだけだ」

「そんな言い方、母さんが聞いたらぶちギレるよ?」

「俺は事実を言っただけだ」


悪いが俺は嘘をつけないたちなんでな、と言うか嘘つくの苦手だし。
俺は手をパンっと合わせた。


「さて、俺達のことはもういいだろ。
千明、雪兎、明日の準備をちょっと手伝ってくれ」

「はーい」

「了解」



***



「アサリアサリアサリ〜〜アサリ〜を〜食べ〜ると〜
あたまあたまあたま〜〜あたま〜が〜良く〜なる〜」


ところ変わって学校の校庭、俺は鍋にインクを入れてグツグツと煮て……正確には煮てるんじゃなくて魔力を混めて“魔導具”を作っている。
魔方陣の上にある鍋の中のインクは沸々と泡が立ってるが決して火は使ってない。
俺がインクを棒でグルグルと混ぜる隣で千明と雪兎はインクどんどん鍋に投入していった。

「ねーちゃん、アサリじゃなくてサカナじゃない?」

「良いんだよ、どっちも魚介類なんだからあんま変わんねぇよ」

「いや、結構変わるような……」


俺の発言に千明は冷や汗をかき、頬をかきながら言った。


「姉さん。ユキト、食べたい、アサリ」

「ん、じゃあ明日の夕御飯アサリの味噌汁にしようか」


ピョンピョンて跳ねながら雪兎が言ってきて微笑ましかったのと折角の雪兎の要望でもあったので明日の夕御飯はアサリの味噌汁を入れることにした。
そうなると明日アサリ買ってこないとなぁ……


「そういやねーちゃん、ずっと突っ込まなかったけど今何作ってるの?」

「内緒、しいて言うなら“消えないインク”
折角書いたのに雨で消えてたり誰かに消されたら大変だからな、絶対に消えないように念いれだ」

「え、この学校に通う身の俺としては流石にいつかは消えてくれないと困るんだけど」

「大丈夫、面倒だけど用が終わったら消えるように仕掛けるから」

「そんな面倒なことするくらいなら普通に手紙出せばよかったんじゃないかな、最初そのつもりだったよね」

「筆跡鑑定されたらめんどいし、手紙だと気づかれない場合がある。
その分必ず来る学校自体にメッセージを残しとけば気づくだろ」


何らかの事件で手紙に気づかずそのまま一日を過ごされたらなんか虚しいし、氷来に完璧にこなすって言ったのが嘘になるからな。
そう考えているとグルグルとかき混ぜていた鍋の中身が発光し始めたので俺は棒を鍋から出し、雪兎達を止めた。
後は魔語を籠めるだけ……


我は未来の炎を灯す者 汝は力、汝は導 汝の理をここに示そう


最後の仕上げを終わらせると鍋の発光が収まり中には七色の液体が入っていた。


「綺麗……」

「あ、まだ触るな雪兎」


魔導具に触ろうとした雪兎を止めて。
二つの小瓶に液体を入れて呪文で封をした。


「よし、これで大丈夫。
ほら雪兎、千明もお守りがわりに持っとけ。
直で触らなければ無害だから」


そしてそれをそのまま雪兎と千明に渡した。


「姉さん、ありがとう」

「直で触ると有害なのこれ?」


雪兎はお礼を言って小瓶を月に翳して遊んでたが千明は“直で触らなければ無害”という言葉に顔をしかめた。


「いや、直で触っても千明と雪兎なら平気だ。
一般人はどうだか知らんが」

「それを学校に塗るの?」

「塗れば無害だ。
それにこの学校に一般人なんていねぇよ」


この学校に一般人がいたらそれはそれで驚きだ。


「それもそうか。
あとねーちゃんこの七色ペンキを学校に塗りたくる気?
流石にそれは止めるよ」

「それも大丈夫、塗れば黒くなる」


正確には塗ればその者の思った色になる魔法のインクだが……まあ、詳しいことは言わなくて良いだろ。
このインクの本当の使い道も黙っておくか、まあ俺以外あまり使わないと思うがな。


「んじゃ早速書くか。
えーと……何書こうかな」


シンプルに書けばいいか?でもシンプル過ぎるのもな……


「結局書くこと決めてなかったの?」

「ああ、時間を置けばいい案が出るかと思ったら全然でなかった」

「どうするの?案が出るまで待つのは良いけど、
俺明日バイトあるから夜寝れないのは嫌だよ」

「いや、何なら千明は雪兎と一緒に先に帰っても……ん?」

「ねーちゃん?」


先に帰ってもらおうとしたらちょっと離れたところに心当たりのある三つの気配を察知した。
……これなら帰ってもらわなくても大丈夫そうだ。
利用出来るものは何でも利用しますか。


「千明、雪兎。
ちょっと面白いこと考えたから手伝ってくれるか?」



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