糸が魅せる

□練習
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『ううぅ……』

「ただいまー……っうわぁ!?ど、どうしたんだよ絆音!そんなジメジメして!」

『ジメジメしてないよーいつも通りだよー』


夕方、絆音がどんよりと重い空気を出しながら机に突っ伏していると疲れた様子の遊矢が帰ってきた。
遊矢は絆音の様子に驚いた。


「いやなんでもないわけないだろその様子じゃ」

『何でもないたらないの!
別にいつも通りデュエルに負けて落ち込んでいるわけじゃないもん!』

「デュエルに負けて落ち込んだのか……」


あの後もデュエルしたけど5回やって5回とも負けた……
負けるのはわかってたけど1ポイントもダメージを与えられないのは心に来る。
頑張ってるのに、どうしてこうなるかな……


いつも通りめんどくさいことになっている絆音を見て、
息をつくと遊矢は台所に入っていった。


『お兄ちゃん?』


暫くすると遊矢はホットケーキを乗せたお皿とフォークを持ってきて、
絆音の目の前に置いた。


「ほら」

『……なに?』

「ホットケーキ、大好きだろ?これで元気だせよ」


お兄ちゃんが用意したのは私の大好きなフワフワホットケーキだった。


『……でもそろそろご飯』

「母さんには内緒ってことで」


お兄ちゃんはシーっと悪戯をするような顔つきで笑った。


『そ、それなら!』

私は急いで台所にいき、もう一つフォークを用意した。


『半分こ!!一緒に食べよう!』

「え、気を使わなくてもいいって、絆音が全部食べろよ」

『全部食べたらお腹いっぱいになるからいいの!!』


フォークをお兄ちゃんに押し付け、私はホットケーキを食べ始めた。


『美味しい!』

「それは良かった」


ホットケーキの半分こ。
私はふと昔を思い返した。


「これ!父さんからのプレゼントだって!!」


『……お兄ちゃんも上手くなったもんだよね、3年前は食べられたものじゃなかったよ』


昔のお兄ちゃんのホットケーキは黒焦げ……いや消し炭化していて、
お世辞にも食べ物と言えない、食べられるものじゃなかった。


「うっ……絆音は全部食べたじゃないか!」

『そりゃ食べないと食材が可哀想だもん!』


消し炭となって、食べられてもらえない食材ほど可哀想なことはない。


『……ユウ兄』

「ん?」

『ありがとう』


3年前のあの時、泣いてばかりだった私を慰めてくれた時と同じく。
私はユウ兄にお礼を言った。


「……どういたしまして」

『そういえば……疲れた様子だったけどどうしたの?』

「ああ、実は……」


お兄ちゃんは沢渡って人にカードを盗まれ柚子ちゃんたちも危ない目にあったらしい、
けど結局デュエルでコテンパンに叩きのめしたこと。
その後取り巻きも使ってリアルファイトになりそうになったらしいけど素良って子が全部撃退してくれたって話をした。


『た、大変だったんだね……』


私が日織にコテンパンに叩き飲まされている時にそんなことが起こっていたなんて……
その場にいなくて良かったと思うべきか、のけ者にされてさみしいと思うべきか……
柚子ちゃんやフトシくんやアユちゃんやタクヤくんはいるのに!
はっ!権ちゃん枠か!権ちゃん枠なのか私は!


[まるで意味がわからんぞそれ]

『(のけ者的な意味合いで私は権ちゃん枠に入ってるのかなって)』

「それにしても紫雲院 素良か……」

『どうしたの?』

「いや、おかしな奴だったなと思ってさ」

『へーどんな子なんだろう』


私は素良くんがどんな子なんだろうと思った。

その次の日、まさかお母さんが拾って来るとは私もお兄ちゃんも想像できなかった。



→あとがき
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