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□鏡の国の少年
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鏡の国の少年が
鏡の向こうの国を見ていました

なんで向こうは楽しそうなの
なんで僕は独りなの



少年は所詮鏡の国の住人
向こうの世界にいる主が鏡の前を通ったときにしか存在できません

鏡の中は音もなく
少年は生まれて消えていく



僕もあちらの国へ行きたい



少年は主が鏡の前を通る度に生まれ出で
強い思いを抱いて消えていきました









ある日鏡の国の向こうの世界で争いが起りました
少年はそこで初めて向こうの国が怖いと感じました



あちらの世界はどうなってしまうんだろう



日に日に荒れていく外の世界で主も痩せ衰えていきました


とうとう争いに巻き込まれた主は傷だらけで鏡の前に立つと言いました




お前はこちらの世界に来たいんだろう




少年は初めて声をかけられて驚き
恐怖と喜びを味わいました




僕の望みは外の世界







なら代わってやるよ




主と少年は鏡ごしに手を合わせました




少年は外の世界に飛び出すと嬉しくて走り回りました



これから僕は消えることがない音の溢れたこの世界で生きていくんだ




お礼を言おうと鏡の方へ振り向くと
主が何かを叫んでいます


けれど鏡の国には音が無いので
何を言っているのかわかりません




少年は主の顔がひきつるのを見て
その後ろに剣を持った男を見ました











少年は鏡から消え
もう生まれてくることはありませんでした







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