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□海の女神
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水牢の中にいる姫君

囚われてからの日々は彼女を蝕んでいった

泣き叫ばないのは誰も聞いてくれるものがいないから

それでも涙は止むことがない
歳を紡ぐ毎に美しくなっていくのに
誰も見てくれる人がいない

稀に人魚の影を見るのに

闇の中に暗く佇む水牢からは見えても

向こうからはこちらが見えない






海の底に囚われた姫君



何百年をそこで暮らす




誰にも見られぬその身は歳を紡がなくなり



人魚の影も見なくなった



ある日水牢が破れたとき




彼女は海になった




身を震わせて浮上していき人魚を抱き締めて



そのまま自分の故郷へ急いで突き進む




ずっと昔に自分を水牢へ閉じ込めた


欲の人々の子孫の姿を見たとき

怒りは喜びに変わり




姫君は故郷を抱き締めた










人々の叫びは姫君に呑み込まれ




その日国が一つ滅びました




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