「恐いの?」
あどけなさの残る声。
その問いに、彼女は首を横に振る。
寝床にしんと横たわったまま、
ゆっくりと。
「……何かの結末を迎えるとき、
人は必ず、後悔や恐怖を覚えるものです。」
「ふぅん。」
夜闇に滲むその姿が、
少し首を捻った。
「ムツカシイ話は、嫌いだな。」
───そう、言って。
細い月を背負うように
『彼』は笑っていて
その右手が、
微かにゆらいだ。
そうして
それが
彼女の見た
最期の光景になった。
「───やれやれ。
さぁ、終わった。
これから、はじまる。
ふふ。
ふふふ。
さてさて。
キミはどう動くのかな?
気付いてるんだろ?
どれだけあがいても、
キミは
幸せになれないってコト。
どれだけ
はいつくばっても、
汚れるだけで
何も得られやしない。
全て、失う。
ははは。
可哀相に。
どれだけ求めても
そこから突き落とされる。
どれだけ悲観しても
誰も同情しない。
それは別に、
ボクの所為じゃないんだよ。
世界が、
キミに背を向けているんだ。
いつまでも、
幸せな勘違いを
させておくわけにはいかないな。
理解して貰わなくちゃ、ね。」
『幕』
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