リクエスト小説
□欲しかったものは。
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「………レオナード、いる?」
今日も一緒に過ごせないと言っていた筈の日の曜日。
ノックと共に聞こえてくる、恋人の声。
だが、レオナードは話す気は無かった。
と、いうより…合わせる顔が無い、といった方が正しい。
あんなに腹が立ったのは何故なのか、本人にもわからないが、マルセルが自分に対して秘密を持つ事にショックだったのは、確かである。
やはり、「見えない所で何をしているかわからない」。
自分が普段口にしている、その通りになってしまったのだから。
「………!!」
「…そこに、いるんでしょ?まだ、僕の事…怒ってる、の…?」
「………………」
「話、聞いて欲しい事があるんだ…。開けてくれないかな?」
「………………」
「………………」
恐ろしく、長く感じられる沈黙。
中の様子を窺いたくとも、何も聞こえず…時が確かに動いていると感じるのは、自分の瞳から流れゆく涙のおかげだった。
「………そっか、もう…ダメなんだ…」
「………………」
もう…信用を失ってしまったと…そういう事なんだろう。
何故か、レオナードに対して怒りは沸かなかった。
自分が、正直に言っていれば…こんな事にはならなかったのだから………。
マルセルは自責の念で一杯だった。
信じてもらえないのは悲しかったが、もし自分が同じ事をされたら………、と思うと。
彼だけを責めることは出来ない。
「………内緒にして…ごめんなさい…」
コトリ…、と何かを床に置くような音が扉越しに響いた。
マルセルは震えてしまう声を極力気付かれないように、明るく装った声で扉越しにいるであろうレオナードに語りかけると、
涙でぐしゃぐしゃになった顔を手で拭った。
その表情は………何かを諦めたような…泣き笑いのようなものだった。
「レオナード、ごめんね…?
………さよなら…」
そこにある想いを振り切るかのように、廊下を勢いよく駆けて行く音が徐々に遠ざかって行く。
さよなら………?!
アイツ…いつもはじゃあね、だとか…またね、だったり…。
さよならって………そういう意味のか?!
「………!!アイツ…」
レオナードは勢いつけて扉を開くが、何かに当たり、それが転がって行ってしまった。
「ン………?何だ?!」
転がって行ってのは、瓶。
見覚えのある、ラベルが貼ってあった。
これは………!!
「な…んで、コレがここにあんだァ?!」
それは、レオナードの…故郷のワインだった。
とても貴重な物で、量産出来ない種の果実から作られる。
地元の人間でさえ、入手は困難な代物だ。
それが…何故…、ここにあるのか…。
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