リクエスト小説

□欲しかったものは。
3ページ/6ページ









「………レオナード、いる?」


今日も一緒に過ごせないと言っていた筈の日の曜日。
ノックと共に聞こえてくる、恋人の声。

だが、レオナードは話す気は無かった。

と、いうより…合わせる顔が無い、といった方が正しい。




あんなに腹が立ったのは何故なのか、本人にもわからないが、マルセルが自分に対して秘密を持つ事にショックだったのは、確かである。

やはり、「見えない所で何をしているかわからない」。

自分が普段口にしている、その通りになってしまったのだから。




「………!!」






「…そこに、いるんでしょ?まだ、僕の事…怒ってる、の…?」

「………………」

「話、聞いて欲しい事があるんだ…。開けてくれないかな?」

「………………」

「………………」







恐ろしく、長く感じられる沈黙。

中の様子を窺いたくとも、何も聞こえず…時が確かに動いていると感じるのは、自分の瞳から流れゆく涙のおかげだった。






「………そっか、もう…ダメなんだ…」

「………………」






もう…信用を失ってしまったと…そういう事なんだろう。
何故か、レオナードに対して怒りは沸かなかった。





自分が、正直に言っていれば…こんな事にはならなかったのだから………。

マルセルは自責の念で一杯だった。

信じてもらえないのは悲しかったが、もし自分が同じ事をされたら………、と思うと。

彼だけを責めることは出来ない。







「………内緒にして…ごめんなさい…」

コトリ…、と何かを床に置くような音が扉越しに響いた。








マルセルは震えてしまう声を極力気付かれないように、明るく装った声で扉越しにいるであろうレオナードに語りかけると、
涙でぐしゃぐしゃになった顔を手で拭った。



その表情は………何かを諦めたような…泣き笑いのようなものだった。







「レオナード、ごめんね…?
………さよなら…」










そこにある想いを振り切るかのように、廊下を勢いよく駆けて行く音が徐々に遠ざかって行く。








さよなら………?!








アイツ…いつもはじゃあね、だとか…またね、だったり…。








さよならって………そういう意味のか?!










「………!!アイツ…」







レオナードは勢いつけて扉を開くが、何かに当たり、それが転がって行ってしまった。




「ン………?何だ?!」





転がって行ってのは、瓶。


見覚えのある、ラベルが貼ってあった。


これは………!!










「な…んで、コレがここにあんだァ?!」








それは、レオナードの…故郷のワインだった。

とても貴重な物で、量産出来ない種の果実から作られる。

地元の人間でさえ、入手は困難な代物だ。

それが…何故…、ここにあるのか…。






.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ