Dream(other)

□幸いあれ、人の子に
1ページ/4ページ

 


「疑おうが疑うまいが、神はいるのだから仕方がない」


 神はどうか知らないが、少なくとも天使はいる。
 なぜ断言できるかって?
 そう言ったのが、大天使メタトロンその人だったからだ。

 天使にしては妙に目元に色気のあるおっさんは、私が酒を飲んでいるとたまに現れる。
 言っておくが酔った幻覚ではない。1杯目を頼んでいる時点で既に現れているからだ。
 それに、幻覚ならもっと、私のイメージに近い金髪ふわふわ少年のはず。

 あともちろん、酒なんか飲まない。


 その光景を見るたび、私は毎回聞くことにしている。
 まあ、一応だ。言ってもやめないだろうから。

「酒飲んでいいの?」
「飲んでいないと言ってるだろう、何回言わせる気だ」

 彼はウイスキーを口に含み、それからすぐに吐き出す。

「天使が規律破ってどうするんです」
「破ってはいない」
「だとしてもスレスレだろうに」
「我々の規律は柔軟なのだ」

 また一口含んでから、もったいぶって彼は言った。
 どうやらいつもの、うさんくさい宗教談義をはじめる気らしい。
 宗教にうとい私は、早速出そうなあくびをかみ殺す。

「聖書を見てみろ、曖昧極まりないだろう。どう解釈するかなんて何通りも思いつく」
「何ではっきり書かなかったわけ」
「信仰を広めるためさ。万人に受け入れられるには、曖昧にするのが一番だろう。それぞれが自分の好きなように思いこめる。これでも結構考えたんだぞ」
「…あなたが書いたの?」
「シナイ山で口述筆記させたのさ。まあ、半分はその場でアドリブだが」

 メタトロンは、やれやれといった顔をした。


 ***
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ