Dream(HP)

□パンドラ
1ページ/4ページ

 



 その箱は、灰色のなめらかな石でできていた。


 表面の彫刻はうねうねと全体に這い回っていて、『悪魔の罠』の根(というのだろうか)を思い出させる。

 作者は美しさを追求しているとは思えなかった。
 むしろ、醜さを。
 禍々しさを。



――彼女はひとつの箱を授かりました――


 私の頭の中に、文章が浮かぶ。

 昔読んだ神話だ。けれど有名すぎて、面白いとは思わなかった。



――神々からの贈り物のうちのひとつ――


――けれど決して、それだけは開けてはいけない――




 …何が入っているのだろう。

 中身なんて考えもつかなかったけれど、あの話を思い出した途端、興味が湧いた。


 そもそも最初から、やけに目についていたのだ。

 ガラス瓶の中で、ただそれだけが鈍く輝いていたから。




――そう、神は彼女に、箱と一緒に好奇心を与えた――



 開けてみようか。

 パンドラと同じように。


 ここはただの薬学準備室で、私は普通の生徒だ。

 もし罪を問われるとしても、彼女ほどではないに決まっている。




――好奇心に負けた彼女は――



 確かにこの箱には、宝石なんかは入ってなさそうだ。


 けど魔法界では『災い』なんて、箱に詰めて保管しない。

 ここに入っているのは、悪くてせいぜい闇の品物程度。


 だったら大丈夫。

 呪いの解き方も、少しぐらいは分かる。




――約束をすっかり忘れ――




 そもそも、手の届きやすいところに置いておくのが悪い。

 生徒が好奇心の塊だって分かっているだろうに。


 別にいいでしょ、私ひとりぐらい。










――ついにそのふたに手をかけた――






















 ふたに触れるか触れないかのところで、骨ばった白い手が、勢いよく私の手首を掴んだ。








→ 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ