Dream(HP)
□I miss you
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「イギリスの冬って鬱るよね…夜長いし。日本が懐かしい」
放課後の談話室で、レイが呟く。
「日本に帰りたい…」
机にあごをのせて、目の前に広げた宿題にはまったく気がない様子だ。
そう、彼女はいわゆる「ホームシック」にかかっていたのだった。
「猫みたいにぬくぬく昼寝したい…。ここじゃ日光が足りないよ…」
「旅費もったいないから年一しか帰るなっていわれてるんだって?キツイよね」
同じく残留組のハリーがうなずく。
「そうなんだよ、ひどいよ親!君たちにクリスマス帰れるって報告がしたいよ」
「日本じゃそういう時『実家に帰らせていただきます』っていうんだろ」
「それ違う」
落ち込んでいるので、ロンの勘違いをたった一言で切り捨てる。
フォローという名の愛が欠落している。
「しかもそんなベタな台詞、テレビの中ぐらいしか使わない…あーっ」
レイは頭をかきむしった。
「そんなこと言うから、テレビが恋しくなっちゃったじゃないか!」
「たかがテレビだろ」
「日本のテレビなめんな!まるでジャンクフードのごとく中毒性抜群だぞ!」
レイは意味もなく胸を張った。が、とたんにしおしお崩れ落ちた。
「あたしテレビっ子だったんだよね…あの内容のないバラエティが、パターン繰り返しだらけのドラマが…恋しい…」
「…情緒不安定ねえ」
「来る直前までやってた連ドラ、続きどうなったのかなあ…」
ハーマイオニーの言葉もまるで聞かずに独り言をつぶやく。
目に見えて様子が変になったのはそこからである。
テレビの話題が出たのがいけなかったらしい。
肖像画の枠に指を滑らせ、
「ちょっとハーマイオニーさん、まだホコリが残ってますよ。やり直し」
「何を?」
「駄目じゃん。そこは『すみません、お母様』でしょ」
「あなた私のお母さんじゃないもの」
当然である。
もしくは、
「ちょっとレイ、なんで僕も呼んでくれなかったんだよ!双子の悪戯見たかったのに」
「そんなこと言ったってしょおがないじゃないか〜」
「何その言い方、変なの」
「そうだよな、ここじゃエナリのモノマネ分かる奴もいないもんな!はっっ!」
重ねて言うが当然である。
さらには夕食の席にて、
「…レイ」
「なに」
「…なんで、
コロッケをタワシに変えたの…?」
「フフフ、これはね、ちょっと前まで日本で流行ってた料理なのさ」
「…食べられないよね…?」
「やだなあちょっとしたユーモアじゃないか、ユーモア」
その質問をしたハリーは、ついにどこかにイッてしまったかと思ったらしい。
元ネタが皆目分からないイギリス人に言い続けるネタなど不毛の極みだが、
レイの中ではそうやって、なんとか帰りたい気持ちを抑えていたようだ。
もっとも周囲にしてみれば、
迷惑千万、である。
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