Dream(HP)
□Tea 2
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今回はさっきより、元に戻るのが早かった。
おかげで男は、言い訳を考えなくてはならない羽目になった。
驚いた目でこちらを見ている彼女と、
――自分に対して。
そして神経の細かい彼は、
思いついたのである。
「…ところで」
見かけ上はまったく落ち着き払っている。人生経験で得るべきものは、まず虚栄心。
「この間、人にパウンドケーキを貰ったのだが…我輩は甘いものが嫌いでね」
彼女はさらに驚いて目を丸くしたが、数秒して意図を理解した。
「――頂いていいのですか?」
「そういうことだ」
もったいぶって頷くと、彼女は嬉しそうに笑顔になった。
女性ならばと予想したとおり、甘いものは好きらしい。彼は内心安堵した。
「ものはついでだ、紅茶も――」
杖を出そうと手を動かそうとして、彼はようやく現状に気づき、戦慄した。
まだ、手を握っている。
――まったく、どうしようもないな。
ついに彼は観念した。
ここまで制御が利かないと、言い訳なんかの小さい理性ではもはや太刀打ちできない。
原動力になった感情を、認めないわけにはいかなかった。
とりあえずはこの機会に、その香水が誰のためなのか、それとなく探らなければならない。
男は彼女を椅子へとエスコートした。
彼女が動くたび、
ユリの清楚な香りが辺りを包む。
彼は歩きながら早速、この香りを自分だけのものにする策を考え始めた。
End.
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