Dream(HP)2
□WelcomeBack
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勢いよくバスルームに追い立てるレイと、それにおずおずと従うシリウス。
人の姿をとっているにもかかわらず、垂れ下がった黒い尻尾が見えるようだ。
「…レイ、やっぱりいい」
「よくない」
「もう帰るよ。逃亡犯がこんなところにいては迷惑がかかるだけだ」
「自分で来ておいて何ごちゃごちゃ言ってんの。ほら、さっさと行く!」
ものすごい剣幕のレイに、自信をなくしたシリウスが敵うはずもない。
もはや反論する元気もなく、バスタブの隣に突っ立っている。
いつの間にか別の部屋からバスローブを持ってきていたレイはシリウスに投げてよこし、バスタブの蛇口を勢いよくひねった。
「いきなり帰ってきちゃってさ。なによ。人の都合も考えないで」
シャンプーや必要な小物をかき集めながら、レイはぶつぶつと呟く。
「あんたがよくても、あたしは全然心の準備ができてないっての。
風呂入る時間ぐらいは猶予をもらわないと、こっちだってどんな顔したらいいか分からないわよ」
シリウスはレイを見た。
彼女は準備する手を止めない。
これは湯気のせいだろうか。
さっきと違って、まるで彼女が怒っているように見えないのは。
「なあ、レイ」
「なに」
「なにもしなくていい」
シリウスはそう告げた。
自然と口がほころんでいた。
「君に会えただけで、わたしはもう充分に幸せなんだ。
あとはどんな扱いをされようと構わない。
ただもう少しだけ欲張ってもいいなら、君の瞳に映ることを許してもらえないか?」
レイは作業を止めた。
手に持ったバスタオルをじっと見つめながら、静かに呟いた。
「…キザな台詞」
「10年前と同じだ。君を見ると、こういうことを言いたくなる」
「ストレートに、こっち向いてって言えばいいのに」
「じゃあ言おう。こっちを向いてくれ、レイ」
彼女はひとつため息をついて、それからようやくシリウスに向き直った。
この瞳を見つめたかった。
この瞳に映るためだけに戻ってきた。
「…ただいま」
それを聞くとレイは少しほほえんで、彼が一番ほしかった、ありきたりな言葉をくれた。
End.