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ハロウィン小話
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「トリックオアトリート!」
理科準備室の戸を開けるなり剣道部の三馬鹿トリオが異口同音に言った。
小テスト採点中の佐助は心底うんざりした面持で顔を上げる。
「先生何にも持ってません。お前らも学校にお菓子持って来るんじゃないの」
「チッ」
早速舌打ちしたのは三年の伊達だった。
(お前「失礼します」の一言も言えないとはどう言う事なんだよ。先生は泣きそうです)
伊達を押し退けてニ年の真田がズイと前に出る。
「ハロウィンは明日だが生憎休みでござる。故に今日菓子を頂きたい」
(そんな目をキラキラさせてお菓子ねだるんじゃありません。真田頭は悪くないんだからもうちょっと何と言うか……)
「いーから黙って出せ!」
痺れを切らせて一年の宮本が喚き立てた。
(宮本。先生はお前が一番心配です。将来大化けしそうな予感はあるけど担任の上杉先生に苦労掛けてる事にいい加減気付け!)
実際口に出して言いたかったがグッと堪え、ギャアギャア好き放題喚く三人を廊下に追い立てる。
「はいはいはい、まーくんも真田も宮本も――あ、武田先生みっけ」
見慣れた禿頭が悠々と道場へ続く渡り廊下を歩いていた。剣道部の顧問をしている武田先生だ。
途端に三馬鹿トリオの顔色が一変する。
「武人の前にまず人であれ」がモットーの武田先生は時間に厳しい。
遅刻なんぞしたら道場の居残り掃除一か月では済まないだろう。
「やべっ!行くぜお前ぇら!」
「承知!」
「ズルいぞ!俺様が先だ!」
慌ててバタバタと廊下を全速力で走って行く三人の後ろ姿を見送って戸を閉めた。
「廊下を走るな」と浅井が怒鳴る声が遠くでする。
「やれやれ…」
嵐が去った理科準備室で首を回した。
今日は一緒に帰ってくれる相手が居なくてちょっと寂しい。
手持ち無沙汰に携帯を探るとメールが来ていた。
ディスプレイを見た佐助の表情が緩む。
履歴から選択して発信を押すと直ぐ繋がった。
「よぉ、具合どう?……うん、今大丈夫――」
少し鼻掛かった声がスピーカーから囁く。
「もー三日チューして無いじゃん?寂しくて寂しくて俺様死にそう……いやいやホントだってば!」
上の音楽室から聞こえて来る吹奏楽部の練習をBGMに佐助は喋った。
早く元気になって欲しい。
そしてまた放課後こうやって他愛も無いお喋りをしたい。
佐助の携帯越しのお喋りは、まだ暫く終らなかった。


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