保管庫


ホワイトデーネタ(長政×市/現パロ)
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「この前の返礼だ。その…気に入らなければ食べなくても良いぞ

帰宅した夫が外方を向きながら差し出した小さな包みと一輪の花を見て市はたお
やかに微笑む。
「有り難う長政様。市…嬉しい」
妻の言葉を聞いて長政は真っ赤になった。
仕事帰り、バレンタインの返礼を選ぶ為に何軒も彷徨ったデパートの地下街。
さっき閉店間際の花屋に飛び込んで買った大振りな百合の花。
全ては市を喜ばせたい一心だったが、いざとなるとひどく的外れな気がして自分
に腹が立った。
「フ…フン!御託を並べる暇があったらサッサと花を活けないか!」
ついぶっきらぼうな口調になったが市は気にせず包みと花を受け取り微笑む。
「はい、長政様」
リビングのソファで包みを開けた市が目を輝かせた。
数粒の銀のアザランが天辺にあしらわれたピンクのトリュフは、市の好みにぴっ
たりだ。
「凄く可愛い…。ねぇ、長政様も一緒に食べよう?」
隣りに座る長政に勧めたが首を横に振る。
「要らん。それは市の分だ」
「市…長政様にも食べて欲しいの。ほら、長政様。あーんって、して?」
市がピンクのトリュフを細い指で摘んで長政の口許に運んだ。
照れ臭いが、食べねば妻の黒目がちな瞳から涙が零れてしまうだろう。
こんな瑣末な事でメソメソ泣かせては後々面倒だと自分に言い聞かせ唇を開く。
市がチョコを口の中に落とそうしたが、狭くてなかなか入らない。
「あれ…?ご、ごめんなさい長政さ――あっ」
元々短気な上に照れ臭さも手伝って長政は市の手首を掴むと指ごとチョコを口に
含んで奪い取る。
チョコを持っていた所為か、舌先に触れた市の指はほんのりと甘かった。
気恥ずかしくて外方を向き八つ当たりにガリガリと音を立ててアザランを噛み潰
す。
「………」
市もピンクのトリュフを口に入れ、長政が舐めた指を自分も舐めてみる。
くすぐったい感触がして夫に微笑み掛けた。
「美味しいね、長政様。来年のお返しもこのチョコにしてくれる…?」
「……ずっとだ」
「え?」
「ずっと返礼はこのチョコとあの花だ。それで良いな」
腕組みしたまま視線も合わさず口を尖らせ長政が言う。
これから毎年判を押した様に夫はピンクのトリュフと百合を一輪買って来るだろ
う――愛する妻の為に。
その気持ちが嬉しくて市は満たされ、花が綻ぶ様な笑顔になった。
そして再びチョコを摘み、長政の口許に運ぶ。
「はい、長政様。あーんして?」
自分で食べられると言いながらも、再び唇を開く長政だった。





2009/03/13/投下
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