忍びの日常

□惚れた弱み
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企画「貴方の笑顔が見たいから」参加作品




【惚れた弱み】

初めて出会った時からずっと気になって仕方なかった。

いつか彼に追いつきたいと何度願っただろう…

いつかこの腕で抱き締めたいと何度思っただろう…

それでも未だ追いつけず、
今日もその姿を見つめることしかできない自分がいる。

「…利吉くん?」
夕暮れの職員室。
利吉の重いため息と夕暮れが彼に影を落とす

「悪いね、山田先生帰ってくるまでまだ時間がかかるみたいなんだ。仕事の時間はまだ大丈夫?間に合わないのであれば伝えておくけど…。」

「いえ、大丈夫です。」

本当は父にはたいした用事はない。
いつもどおり「休みには家に帰れ」とそう伝えるだけ…
ただ貴方に会いたくて…
それだけだった。

「そうだ、ご飯だけでも食べていきなよ。もうすぐ夕飯だからさ。」

利吉はその笑顔に弱くて…彼ににこりと微笑まれたらもうダメだとは言えないのだ



夜の食堂は生徒達ですでににぎわっていた。
食事を受け取り空いてる席に二人で向かい合って座るなり、キョロキョロと周りを見る先生。様子が少しおかしい

「…土井先生?」

びくっと驚いた様子でこちらを見て苦笑いをうかべ
「ねえ、利吉くん…これ…食べる?」
と、小鉢を差し出す。
差し出された小鉢には大きなちくわが入っている。

明らかに嫌そうな顔。どうやら先生はちくわが苦手のようだ。
そんな新しい発見がなんか嬉しくて愛しい。

「なんか可愛いですね土井先生って。」

「失礼だなー私は男だよ。」

「そんなの関係ありませんよ。」
クスクスと笑いながら小鉢を受け取ると
「よかった、やっと笑ってくれたね」
と先生が微笑む。

「利吉くんなんか元気がなさそうだったから疲れてるのかなって思って。」

「えっ…」

「…違うの?」

その眼差しはとても暖かくて優しくて…
素直に疲れていると打ち明けた。

「そう…それならあまり無理はしないでね。たまにはゆっくりしなきゃだめだよ。」

本当にこの人にはかなわない

こんなに弱い自分も受け入れて、理解してくれて…そして気遣ってくれる。

だから…
「惚れた弱み」も
この際全て吐き出してしまおう
この想いを全て…



「ねえ、土井先生…」
部屋へと戻る途中で足を止め、言った。
「大事な話をしたいんです」…と

終わり




久しぶりに企画参加させていただきました。
少しでも喜んで頂ければ幸いです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。

CAROL 瑞樹りん

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